宰相府藩国 水の巨塔

作業員物語

 水の塔は建築物である。建築物である以上、やっぱり作業をする人がいる。これはそんな作業に汗を流し、日夜人々のために働く戦士達の物語である。

序章 手がかりは水の調べ

「モグモグ」
 レンの今日の朝ごはんはいつもの通りにこんがり焼いた食パンと牛乳であった。朝はこれでないと始まらないというのがレンの持論であった。
「レン! おい、いるか!」
 そんな叫び声とともに部屋に入ってきたのは親友のコウであった。ドカドカと音がしてレンは顔をしかめた。
「コウ、そんなにドカドカ音立てないでよ。あと、インターフォン鳴らしてから入ってきてよ……モグモグ」
 レンはそう言うと食パンをモグモグ食べながらコウの方へと向いた。
「モグ……って土足で家の中、モグ、入ってこないでよ」
 土足でドカドカ入ってきたコウに対してのんびり食事をしながら注意をするレン。しかし、そんな事を気にせずにコウは再び大声を出した。
「土足どころじゃねーって! ほら、これ見ろよ」
 そういうとコウは懐から封筒を取り出した。宛先はコウではなくレンと書いてある。
「モグ……だから、人の郵便勝手に……ん? これって、探偵さんからのお返事?」
「そうそう、依頼の結果報告じゃねぇのか? 早く開けて確認してみろよ」
 レンは牛乳をゴクゴクと飲み、手についたパンくずを皿に落とした。
「あー、早くあけろよ。なんか気になるじゃねえか」
 そわそわとしだすコウ、それに対してのんびりと封筒を開け始めるレン。
「んーっと……結果報告かな?」
「なんて書いてあるんだよ」
 とても知りたいが、しかし勝手に覗くのも悪いと考えているのか、コウはその場でグルグルと動き出した。どうでもいいが、土足なのにグルグルと部屋を動きまくるのは大変迷惑であろう。が、レンは気にせずにほむほむと読み始めた。
「……うん。なんか、手がかりみつかったんだって」
「手がかり!」
 うっし! とコウは拳を握ると、頭上に掲げた。
「手がかりいいじゃんいいじゃん。んで、どんな手がかりなんだ?」
「えーっと、探偵さんによると、父さんは水の塔の作業員をしてたことがあったみたいだって……現在の居場所は引き続き調査する……って書いてある」
 コウは眉をひそめた。
「あ? そんだけ? んー、微妙な情報だなぁ」
「まぁまぁ、探偵さんもがんばってると思うよ? だって依頼してからまだ三日もたってないよ?」
 コウはうーんと唸ると一瞬だけ考えるとレンへ問いかけた。
「よし、こっちからも調べようぜ。レン、今日の新聞は?」
「新聞? ここにあるけど?」
 レンは横の椅子に置いていた新聞をコウへと差し出した。コウは受け取るとすぐさま、新聞のアルバイト欄を開いた。
「えーっと、あったあった。朝新聞見た時に水の塔の作業員募集のお知らせ載ってたんだよ。これに応募して内部、調べてみようぜ?」
「え? アルバイト?」
「よし、決定! レン、ついてこい!」
「わわ、ちょっと待って」
 レンはいつも被っている赤い帽子だけを手に取ると、コウの後を追いかけようとして立ち止まった。
「あ、床汚れてるから、拭かないと」
「だー、そんなの後回しでいいじゃんか」
 汚した本人の自覚のない言葉を無視し、レンはモップを取りに部屋を出て行った。
「……ちょ、ちょっと待てよ。レン、俺も手伝うから!」
 そう言うと、コウはレンの後を追いかけていった。