宰相府藩国 水の巨塔

構造

個々の構造

1.外殻

 全幅210mの塔の一番外側は、外観の美しさ及び防錆の目的で幅5mほどの外殻が設けられた。この部位には上に挙げた二つの効果だけでなく、ランドマークとなるにふさわしい景観も必要とされた。表面の美しさを求めるためにはコンクリートでは不足で、何より腐食の危険性がある。ガラスでは美しく錆びることもないが、強度が足りない。しかし金属では錆が発生する。水による浸食も問題とされた。
 そこで考え出されたのが、通称ウンディーネと呼ばれる新素材である。
 白いセラミックの一種のような外見だが、5mにも及ぶ厚さに整形しても鉄筋コンクリート以上の強度、圧縮力、引張力、延性を持つため、M7程度の地震でも歪みやヒビが見られないと言う強靭な素材である。水による浸食、腐食どちらにも耐性があり、表面を加工すればガラスのように磨き上げることも可能ということもあって、外殻の素材として採用された。この素材のもっとも重要な特性は、電気信号によって結合を制御できるということだ。亀裂が入っていたとしても、コントロールルームから信号を送ることで隙間を埋めることができる。このため、常にモニターすることで水漏れの心配がないことも採用の大きな決め手となった。
 上記のように外殻は普段は白い色をしているのだが、人の目に付くときには虹色に輝いていることがある。しかしウンディーネにはこのような機能がない。では何が、というとシルフと呼ばれる高分子ゲルによって行われているのだ。このシルフは普段は透明だが、電流が流れることで文字通り七色に変化する。これで塔を覆うことで色の変化を起こしているのだ。
 上記の二つの新素材はあまりに不思議なものだが、宰相が考え付いたらしく、それほど疑問の声は上がっていない。

2.内殻

 次に、外殻で補え切れない強度を確保するため、30mに及ぶ内殻が設けられた。
 この区画には動力パイプや各種ケーブル、地上と地下庭園への移動用及び塔内部移動用エレベーターが設置されている。構造の内訳は10mほどの壁と20mほどの内部スペースとなっている。常駐の整備士のための生活スペースも設けられており、内部構造と行き来する通路もある。その構造はどちらかと言えば宇宙船の通路のような感じに作られているため、時間間隔を忘れないために昼は明るく、夜は暗く照明が調節されている。前述の通り塔内部は縦方向に100m単位で区切られているため、そのほぼ中心部分にこれらの生活区画は存在していることになる。また、基本的にはエレベーターも100mごとに区切られ、その都度乗り降りするということになっている。
 しかし、いくつか例外があり、機材搬送用の大型エレベーターは200mごとの設置であり、地下庭園との連絡用となる塔への入り口から最下部までの直通エレベーターは3基設置されている。
 このエレベーターであるが、その全てがリニアモーターによって運行されている。これにより速度と容量が確保され、省スぺ一スを実現することもできた。乗り心地についても揺れも少ないことから好評を博している。なお、大型のものの中には床面積15m2、高さ25mを超えるものも確認されている。それに合わせるように内部へと繋がる扉も同様のサイズで作られている。これはI=Dも輸送することができるということを示しているが、公式には水の巨塔の中にI=Dが運び込まれたと言う記録は残っていない。
 ここではノームという金属と鉱石の中間らしき素材が使われた。とにかく固いということが自慢の素材だが、水への耐性はそれほどではない。だが外殻よりも強度を優先している内殻には格好の素材であった。この素材もウンディーネのように電気信号で制御することが可能である。つまり外殻と併せてブロックごとの排除が可能であり、非常時には内部ブロックを入れ替えることも不可能ではない。このためにエレベーターもブロックごとに切り離すことが可能な構造になっている。

3.内部

 その内側に存在するのが問題の内部構造である。
 この区画は最も大きく、一つのブロックの厚さは60m程もある。通常のブロックには下の階層から送られてきた水をプールし、浄水し、上の階層へ送るという機能がある。このルートは大きく三つに分かれており、この分割により水を噴き上げながらのメンテナンスも可能となった。また、ブロック内で必要なポンプもプールから浄水設備へ、浄水設備からもう一つのプールへ、そして上の階層へという三つに分割することでそれほど強力なものは必要ではなくなったのである。なお、爆発物や毒薬物などのテロ対策も浄水する過程で行っている。
 ただこれは通常のブロックのことであり、他の設備があるブロックではパイプに加速器を備え付けただけのもので上の階層まで水の勢いを保っている。また浄水もそう何度も行う必要はないため、実際は通常ブロックの後加速器だけ設置された他の設備があるブロックが二つ、という並びが続いている。加速器のみのブロックでは騒音や見た目を考慮してパイプが通っている部分を独立させて小さなブロックとし、それを補うように残りのブロックが接続される、という形式を取っている。
 ここを通っているパイプは上へと水を汲み上げるものだけではない。、下へと降ろすものもあるのだ。これは地下水が枯渇することによる地盤沈下を防ぐため、地上にとりすぎた水を地下へと戻すためである。この時落ちる水の勢いを利用して水力発電も行われている。この下へのパイプも上へのパイプも塔の中心に近い方に配置されている。揺れが起きても一番影響が少ない部分であるし、上記のように独立させるためでもある。
 これらの工夫によってポンプの数が増え、整備の必要性は上がったが、常駐の整備士を置くことで安全性は確保された。この整備士達へは手当てとして週3マイルが支払われているとのことである。
ブロックの外壁の厚さは3mほど。ここでもノームが使用されている。プール部分の内壁には防水加工を施した別の素材を使うことでことで対応しており、強度と実用性の確保を実現している。

4.芯

 中心には直径20mの芯が通っている。
 これはただの金属の柱である。継ぎ目もなく歪みもないこの柱が全体のバランスを支える要となっている。この芯を中心に内部構造のブロックが設置され、それを覆うように内殻が作られていき、最終的に外殻で覆われた。ただこの芯については質量と体積×密度が一致していなかったという話もある。宇宙で宰相指揮のもと作られ、その工程の一切が不明であることからも、内部に何かがあるかもしれない、という噂はある。しかし強度検査では全く問題がなかったためそのまま使用されている。これも内部を調べようとして行方不明になった者がいることは言うまでもない。