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龍青神社

湧き出る水に、こころ癒される

龍青神社
清浄な雰囲気に心も洗われるよう
 黄金の銀杏並木や金と赤に彩られた公園から少しそれたところにある参道。その長い長い参道を上り、山の7合目当たりまでいったところに水神を祀った神社がある。

 この神社、正式な名前を『龍青神社』という。名前より感じる印象よりは規模がやや小さいが、訪れる人は多岐に渡る。観光客は勿論、一般市民や観光客相手の店を経営するものまでそれこそほぼ毎日人が訪れるのである。
 理由は、単純である。水神を祀っていることからも判るように、その神社は秋の園の主な水源となっているからであった。神社の傍にある水源からは清らかな水がこんこんと湧き出ており、長い参道を登り疲労した者も、周囲の見事な風景と清らかな空気、そして水のせせらぎで癒され、重い水を持って帰路に着くのである。

 勿論、水道が整備されていないわけではない。しかし、どこでも水道の水というのはカルキがどうしても残るもので、自然(と言っても、この水源も厳密には「自然」ではないのだが…)の水源のものとは比べ物にならない。と言うわけである。
 住民は兎も角、食事を提供するほうにとっては味は死活問題である。
 それ故に、長い参道を登ってでも水を汲みに来るのである。


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 その神社であるが、由来は定かではない。
 元々宰相の趣味で作成された四季の園であるため、由来は様々なのであった。
 そして、その様々な由来の一つにウォータードラゴンなるものを奉っている、と言うのがある。
 他の園にも似たような話があるため、それが一番信憑性が高いとされ「水」に関連しているため、水を汲んだものは「今日もおいしい水を頂きます」と参拝していくのである。
 さて、そのウォータードラゴンだが、ちょっと逸話がある。

 それは、大々的に宣伝されてはいないが
『遠い遠い昔、人々が絶望的な戦いに赴いたときに人類に味方した最強の神様であり、今も人々を守っている』
という、なんとも荒唐無稽で胡散臭い話である。
 が、しかし。恋人が良く戦争に行く(もしくは巻き込まれる)者たちは知ってか知らずか参拝に来ることが多いと言う。
 御利益は知るところではないが、今日も参拝客は絶えない。
 結局のところ、信心次第と言ったところだろうか。

 また、神社の奥に見える滝については神域とされて、立ち入り禁止となっている。
 上記のウォータードラゴンに関連しているという話ではあるが、あのサイズの滝を見ると「水竜」だと思っても可笑しくはないだろう。
 時折、立ち入り禁止を無視して入る観光客がいるが、そういったものは何故か参道を通らず麓まで帰っていたりする。
 これについては色々噂も飛び駆っているが、真相は定かではない。


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ある日の秋の園風景

今日も私は神社のベンチに腰掛ける。もちろん、足元には空のタンクがある。
 あぁ、やはり自然は良い。空の青さに紅葉が映えてほとんど毎日見ていても飽きない。最近は参拝客にも二人組が増えた気がする。こういう風景も日々変わる。それを眺めるだけでも十分満足できると言うものだ。
 おや、誰か近づいてきた。

 ん、あぁ。私はここいらに住んでるものだ。名乗るほどのものじゃあないよ。気にしないでくれ。
 何?名前は聞いてない?そうかね。では、この私に何の用かね?
 ん?……あぁ、このタンクかね。水だよ。水を汲むんだ。其処の奥を見てごらん。川があるだろう?、その水源の湧き水が美味くてね。
 米を炊くにも料理を作るにも水は必要だ。カルキ臭い水道水で炊くよりはやっぱりここの水が良い。
 気になったら飲んでみると良い。では、邪魔者はこの当たりで失礼するよ。

 そう言って私は席を立つ。
 やれやれ、神社は兎も角ベンチのほうまで行くとカップルが多くて困る。邪魔になる前に撤退しておこう。
 そのまま境内を横切り、水源へと歩く。この間が一番いい。
 社の傍に聳える大樹が風に靡く音。遠くから聞こえてくる滝の音。そして、やがて聞こえてくる水の湧き出る音。
 これを一度に感じ取れるこの一瞬が至福の時だ。
 ……などと考えつつ、水を汲む。水質を守るために水に直接着けていいのは付属の柄杓だけなので水を汲むだけで一苦労だ。
 同じく水を汲みに来ていたご同輩に会釈し、水をタンクへ移す。
 見たところ、ご同輩は地上の住人らしい。ふと、そんなことを考えながら遠くの滝に目をやる。
 上手くごまかしているが、あの滝の本当の姿は地上に繋がる巨大な塔だ。この秋の園のどこに居てもあの姿が見える。
 ……が、私は正直あれを好かない。どうも地上の奴らは情緒ってのを知らぬらしい。お山のてっぺんには少々不釣合いではないか?
 ま、一市民である私が言っても仕方のない話なのだが。

 私がそんなことを考えてると、水を汲んでいたご同輩が帰るらしく会釈してくる。どうやら結構長い間考え事をしていたようだ。
 さ、私も戻ろう。この場所は好きだが、長居すると眼に毒な人たちが来るからな。
 忘れずに社の前で手を合わす。遠くに聞こえる滝の音がほんの少しだけ強くなった気がする。
 水神殿の機嫌はよろしいらしい。どうやら今日の食事も美味そうだ。そんなことを考えつつ、境内を後にする。

 これで日課は終了。
 さぁ、次は飯炊きだ。その前に茶店で少し一服するのも良いかな。
 あぁ、しかし。今日も山は美しい。水の重さも忘れるほどだ。
 私はぼんやりと景色を眺めつつ、参道を下る。相変わらず、緩やかな日々が続いていた。