のわき園
のどかな場所。静かな時間。
秋の園の観光ルートの入り口とも言える場所にのわき園があります。この公園は秋の園の中でも気候は暖かく、時折涼しい風が吹いてくるので比較的に過ごしやすい場所です。
紅葉ではなく緑の葉が茂っており、湖に接しているからか、地元の人の憩いの場としてよく利用されています。
秋の園に来た観光客の目的は大抵が山登りや紅葉狩りなどにあるので、このあたり一帯は静かで落ち着いた雰囲気を保っています。それもそのはず、この園は観光客の利用のための公園ではないのです。
のわき園は観光客が使う参道や駐車場、ロープウェイからあえて離れた位置に存在しており、園の中の時間はゆったりと流れています。湖を見るためにやってくる観光客がいないわけではありませんが、それも少数なのでひとたび公園の中へ入ると人もまばらになり、寒くもなくゆったりと過ごせる場所として地元民に愛されています。
そんな静かな環境をこの公園が提供できている一番の理由は秋の園にわざわざ緑を見に来る人はいないという事であるといえます。けれどこののわき園は秋の縁とは切っても切り離せない重要な役割があります。
それは「紅葉を引き立てる効果」です。
秋の園は緑から黄色、赤と移り変わっていく紅葉を楽しむことができるという特徴が売りの一つでもあります。これは山を登って行けば行く程、紅葉が進み、その変化を楽しむというものです。けれどそれだけではありません。山の上から下を見下ろした時にただ黄色や赤の紅葉があるだけでなく、緑も加える事により紅葉をいっそう引き立てるために作られたのがこののわき園なのです。
ただの引き立て役であったのわき園はそのためか、木や芝生が植えられているだけで特に遊具がつけられることはありませんでした。しかし、過ごしやすい空間が地元民の憩いの場になり、とても落ち着いた空間を演出する結果になったのです。そんな空間を好むカップルがひっそりと湖のほとりで過ごしている事もあるそうなので、一概に秋の園の引き立て役……とも言えず、隠れた名スポットとしてカップルには知られています。
ある日の秋の園風景
周りからは涼しげな風が吹いてきてボクの火照った顔を冷やそうとする。けれど肩に当たるやわらかい感触がそれを遮る様にボクを刺激する。
……ずっとこのままでいたい。
そんなボクの想いは彼女に伝わっているだろうか? カチコチになった身体から解き離れた右手が彼女の肩に触れようか触れまいか……。
悩んでしまうボクの想いは彼女に届いているだろうか?
この湖はとても静かで遠くで遊ぶ子供の声が風に乗って聞こえてくる。ボクの心臓の高まりは……できれば届いて欲しくない。でも、心臓の高まりでボクの想いが届くのであれば届いてもいいのかもしれない。
木々の揺れる音が聞こえる。それはボクへの激励の言葉にも聞こえる。今日をセッティングした親友の言葉。
”いつもと違う環境になればプロポーズできるんじゃないか?”
あの時はその言葉が胸に響いた。でも今日は胸の高まりが全身に響き、水のきらめきが急げとささやいているようで落ち着かない。
今日は彼女と付き合ってちょうど一年目、始めてのデートの時にこんなに緊張するのは人生の中でこれっきりかもと思ったけど、今日の方がもっと緊張している。
ああ、なんでこんなに静かなんだろう?
こんなに静かだから選んだ場所なのに、そんなとりとめのない事を考えてしまう。
けれど今日は最高の一日を過ごすつもりなのだ、ちょっとした勇気でこれからの人生が楽しくなる。
勇気を絞り、ボクは彼女へと語りかけた。