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ベンチ

休むだけでなく、隠れたラブな名所です

ベンチ
用途に合わせた様々なベンチがある
ところどころにあるベンチ。これはただのベンチではなかった。そもそも秋の園を含む四つの園は宰相の趣味である。そのためか、ベンチ一つに対してもこだわりを持ったつくりがされていた。秋の園のそれぞれの場所ごとにふさわしいと思われるものが用意されているのだ。
 例えば、休憩場所のような開けた場所にはシンプルなベンチを置いた。ここのベンチは背中部分を廃することにより、自由に座りやすくした。水汲み場の近くでは他の場所よりも座る場所を大きくした。またそれぞれの風景に溶け込めるようにやさしい色で自然に良い種類のペンキを使ったり、また近くにある木と同じ種類の木で作っていたりなどの様々な工夫がある。そのためか、時折風景画を描く人物もベンチを利用することがあるという。

 そして何よりも重視されたのがラブベンチである。

 ラブベンチとはその名の通りの恋人用のベンチである。このベンチは人目の少ない場所や日陰になっている場所にひっそりと置かれている。また、他のものよりも少し小さく、座れる人数も二人が精一杯といった所である。そして、このラブベンチは秋の園の中でも山の上の方に行けば行く程、数が多くなる。これは子供連れへの配慮などもあるが、一番大きい理由は気候である。山へと向かえば向かうほど冬の寒さに近づくからこそラブベンチが上にあるのだ。
 それはラブラブベンチ作戦のためであった。
 元々恋人想定のベンチであり、狭いので自然と二人の間は近くなる。しかし、恥ずかしがりのカップルといった場合、それでも離れて座るかもしれない。そんなカップルでも仲良く座れるように……そんな思いから山の上の方や日陰などより寒い場所に数多く設置されている。実際に座った時、一人では寒く、自然と二人で暖めあうようになるようにベンチを想定して置いているのである。実際に寒さを理由に近づく事ができる……そんなラブラブベンチ作戦のために秋の園へデートに来るカップルも多いと言われている。

ある日の秋の園風景

「ねぇ、ソウさん、紅葉が綺麗ね」

「そうだな」

 私の言葉に上の空なソウさん。新聞がそれ程大事なのだろうか? などと思ってみたりもしたけれど、それが結果的には私たちに直接降りかかってくる事、情報の収集が生活へとダイレクトにかかわってくるのは確か、だから情報集めを邪魔する気はないけど……。

「ソウさん。あっちに湖が見えるわ」

「そうだな」

 そう、結果的には私を守るために情報を集めないと色々な事ができない。それはわかるけど……。

「ソウさんのいけず」

「そうだな」

 今日発売の新聞だから最新情報載っているし、へたをするといつ危険がせまってくるかわからないから熱心に読むのはわかるど……。

 せっかくのデートなのに。これでも結構旅費かかってるのに……。


 私の目に隣で一緒に歌っている親子が見える……。

「ねぇ、ソウさん……」

「そうだな」

 同じ返事をするソウさんにいたずら心が私の胸に芽生えた。

「ねぇ、ソウさん、私、子供が欲しいかな?」

「そうだ……な!?」

ある日の秋の園風景
 その時のソウさんの顔は驚きの顔だったけど、すぐに真っ赤になり、汗をダラダラ流し始めた。

「ソウさん?」

「……あー、うん、じゃない、えっとだな」

 目をグルグルさせ始めたソウさんを見て少しかわいそうだったかな? とも思ったがやっとこっちを向いてくれた事が嬉しかったので私は気にしない事にした。

「ソウさん、もう少し上まで登ってみましょ?」

「あー、うんそうだね」

 先ほどの言葉に動揺してか言動がおかしくなり始めるソウさん。もし、ソウさんがもう少し上に登った先に噂のラブベンチがあると知ってたらどう返事してたんだろうな? とも思ったが、今日はデートである。

 罠だ! 

 とか後で文句を言われるかもしれないけど、そんなこと私の知ったことではない。

「じゃあ、上まで行ってみましょ?」

 立ち上がった私につられるようにソウさんが立ち上がった。そんなソウさんの手を私は握り、先行した。今日という日はまだ始まったばかりである。