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「今度はセキュリティの案内だったね」
「そうですー」
「そうよ! つー訳だから、ここは私が案内するわ」
TVカメラに向かって笑顔で会話をするソーニャとエミリオを、相変らず仲がいいなぁ……と思う。
お見合いインタビューで勇名を馳せたソーニャと、
世界貴族としてこういうものに精通しているし外交能力の高いエミリオはともかく、
自分は元摂政とは言えどうしてここにいるのか全くもって疑問だ。こちらは交渉能力等がかなり低い。
実際の所、こうして二組揃うとソーニャ&エミリオ組の方が上手く解説している。
そんな事を考えていると、傍らを飛んでいたQが髪を引っ張る。
「あの二人、仲良いね」
「あれは仲がいいんじゃない。ラブラブなんだ」
「二人はラブラブ?」
うん。と頷くと、Qは「二人はラブラブ! 二人はラブラブ!」と言って宙を舞う。
お邪魔になっているので止めようかとも思ったが、逆にラブラブ度合いが増しているので止めた。
話の腰を折られているにも拘らず、さっきより更にイチャつきあっているあたり、
クリスマスの惚気大会第二位の肩書きは伊達じゃないようだ。砂糖が欲しい。
「あんたたち、話聞く気ある?」
今日子の言葉にようやく我に返る一同。何気に忘れていた。
今日の取材の為に、秘書官の鐘音と宰相府騎士団の今日子が派遣されていた。
そして、セキュリティの説明は今日子がやってくれる事になっていたのだ。
どうでもいい話、Qと今日子は仲がいいという理由でここに来ることになったのではないかと思わないでもない。
巷では性格破綻者とか色々言われているが、Qの相手をしてくれていたりする時点で
それほど悪い娘ではないとは思うのだが…………多分。
まぁ、それが今日子の個性なんだろうし、
こういうストレートな――ストレートすぎるような気もするが――性格は嫌いではないのではあるが。
「ああ、すいません!」
多分このシーンは編集でカットされるだろうなぁ……。
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「セキュリティ関係の案内役として、宰相府騎士団より今日子さんにおいでいただきました!」
「どーもー」
改めて撮影が再開される。
取材用のTVカメラに向かって手をひらひら振る今日子の姿は、中庭の色とりどりの植物達に良く映えた。
「では、早速質問ですが、迎賓館の安全度はどれくらいあるのでしょう?」
「宰相府藩国の中でも一、二を争うわね。宰相府騎士団が警備にあたるから」
Qが宰相府藩国でも安全度の高い場所が幾つか記されたパネルを持ち上げて飛ぶ。
ちなみに安全度では宰相府、迎賓館、冬の園がトップスリーで、次点がハイマイル区画だ。
そのほとんどが出入制限のある区画だ。
「厳重なセキュリティが施された会議室もあるから、会議場のある場所では一番安全ね」
「厳重と言っても警備に当たっている宰相府騎士団は五人と聞いていますが、手が足りるのでしょうか?」
「衛兵もいるから盾には事欠かないかな」
衛兵は本当に一時的な防御戦力扱いなのだろうなぁ。などと思いながらソーニャと今日子を眺める。
二人の間でパネルを支えているQだが、ふらふらして結構大変そうである。
「先ほどから那限さんは黙ったままですが大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ? 単に喋る事が無いだけだ。軒並みソーニャさんが質問してくれてるから」
「僕が言ってきましょうか?」
「いや。いいよ」
こっそりと声をかけてくるエミリオにそう答える。随分と黙り込んでいたらしい。することが無いのも考え物だ。
セキュリティ関連の話はQにはわからないし、そもそもソーニャの方が説明が上手い。
となると雑用をしているくらいしか仕事が無いのだが、画面に見える雑用に出るのはQの方が可愛らしい分適しているわけで、
結局のところする事が何もないのだ。
エミリオも現状ではすることが無いのであろう。立ち去る事無く言葉を続ける。
「それにしても違和感がありますね。迎賓館だけ緑と言うのは」
「まぁ、辺鄙な所だな。侵入者対策としてはいいんだろうけど」
「良く見えますからね」
「お互いに良く見えるのがアレだがな。狙撃されたら避けられんわ」
エミリオの言葉に視線を外に向ける。遠い地平線にゆらゆらと蜃気楼が揺らめいていた。
「でも、狙撃対策はされていませんでしたか?」
「迎賓館本体はね」
今いる中庭からも見える古びた正門は、その大きさの割に実際の所あまり使われていない。
出入は別の出入口から車ごと敷地内に入る事で行われていた。
以前聞いた話では狙撃対策としてのシステムとの事だった。
詳しくは聞かなかったが、迎賓館本館の窓が二重ガラスになっていたのも狙撃対策だろう。
単純に砂が入らないようにするためかもしれないが。
「迎賓館の敷地内ならともかく、敷地外に出てしまえば狙い撃ち放題だろ?」
今回は防弾仕様になったVIP車が手配されていたが、以前来た時は軍用のオープンカーだったので、
決して狙撃対策が出来ているとはいえなかった。
まぁ、そこは同乗者の重要度の違いだろうが。
「それもそうですね」
エミリオはとりあえず納得したのか、そう言って頷いた。
男二人で雑談をしている内にここでのインタビューは終わったらしい。
エミリオは「ソーニャ、お疲れ様」とソーニャの元に移動し、入れ替わりでQが飛んでくる。そしてそのまま肩に止まる。
「Q、お疲れ様。なんか飲むか?」
「うん」
スタッフ用に用意されたスペースに移動すると、用意されていた冷えた紅茶の入ったポットを手に取る。
中庭で昼食を取った時にだいぶ飲んだはずだが、何時の間にか補充されていたらしくポットはずっしりと重かった。
「あー。あっついわねー」
と、そこでパタパタと手で顔を仰ぎながら今日子が入ってくる。
ちょうど紅茶をカップに注いでいた所だったので今日子の分も入れる。
わざわざQ用に小さいカップまで用意されている辺りは、迎賓館が迎賓館たる所以だろう。
今日子はお礼も言わずに受け取ると紅茶を一気にあおる。
空になったカップにもう一杯紅茶を注ぐと、自分のカップにも紅茶を注いでポットを戻す。
しばらく無言で紅茶をすする。
ふと、先ほどまでのエミリオとの会話を思い出して口を開く。
「今質問してもいいかな?」
「何?」
「迎賓館は一般公開されていないんだよな?」
「セプが入ってきたらお父様が困るからね」
ちなみに、ここで今日子が言っている『お父様』とはシロ宰相の事だ。
迎賓館に来る面子は要人ばかりだし、セプテントリオンが侵入して戦闘になったら大変な騒ぎになるだろう。
ここには帝國の皇帝も来るとの事だし、宰相府としては細心の注意を払いたいのだろう。
「Qとオレ、この前ここの見学の許可を貰ったんだけど、問題なかったのか?」
つい先日の話だが、この取材に先んじて個人で迎賓館の取材に来ていた。
ちょうど迎賓館の取材が行われる事が決まっており、宰相に頼みたい事があったので一緒に頼んでみたのだが、
思った以上にあっさりと許可が下りたのだ。
「さぁねー? あんたたちはパパに申請したしチェックも受けたんでしょ。見学が目的だったわけだし、だからじゃない?」
「そういうもんかな……?」
今日子も詳しくは解からないのかそんな答えを返してくる。
確かに外部からここに来る吟遊詩人――ホールとかで芸をする芸人や交響楽団の総称だ――にも
かなり念入りなチェックが行われている。
今回、取材という事でやって来たスタッフも全員が同じように念入りにチェックされていたのだが……。
まぁ、実際問題なかったから許可が出たのだろうし、今更考えても仕方の無い事だろう。そう思う事にした。
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「警護用に配備されているI=Dはあれね」
しばらく経って取材が再開されると、今日子が警備に当たっているI=Dを紹介する。
「ま、警備のキホンってことでI=Dは八機配備。新型よ!」
「新型機に変わるって本当だったんだ……」
「そうね。ゴールデンは退役になってるわ」
そこにあったのは、先日来た時同様の見慣れない新型機だった。
その際、ゴールデンは退役するらしいと言う話も聞いていたのだが、やっぱり退役は確定のようだ。
一度間近で見て、あわよくば試乗してみたいと思っていたのだが……。
「那限さん、詳しいんですね」
「まぁ、一応技族だったこともあるし、I=Dも開発した事あるしな」
声をかけてきたエミリオにそう答えると、エミリオは「へぇ〜」といった表情をする。
そして、物珍しそうな目で新型I=Dを見上げると質問をしてくる。
「ところで、ゴールデンってなんですか? 那限さん、知っていますか?」
今日子に聞いたほうがいいのではと思いつつも、頭の中で機体データを思い出す。
「……まぁ、詳しいって程じゃないが――
A72ゴールデンはA71トモエリバーの兄弟機にあたるI=Dで、設計はになし藩国。
になし藩国と言う国のイメージから帝國の旗頭機みたいなイメージが強い。
トモエリバーに比べると装甲が厚く白兵戦と近距離戦が強い。
遠距離戦はどっこいどっこいだが、まぁ、そこはパイロット次第。
トモエリバーに劣っているのは機動性だな。ARが低いし空も飛べない。
ただ、帝國の旗頭機的なイメージがある機体だけに、トモエリバーよりもハイスペックチューンされた機体が多い。
代表的なのは全評価が+1された王家仕様と全評価が+3されたプリンセスガード仕様だな。
噂ではゴールデン2とかいう機体があるとかないとか言われている――って、何で引いているんだよ」
「那限さん。充分詳しいです」
答えるエミリオの位置は遠い。
何時の間にそこまで移動したのだろう。
「……那限さんはメカマニアですねぅ」
エミリオと共に少し離れた所にいるソーニャが呟く。
そんなに詳しかっただろうか。
確かにメカ技族だが、ゴールデンは一度趣味で要人護衛仕様を設計したのでその時に色々調べただけだったのだが……。
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