外観見学と歴史の紹介  


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< 迎賓館パンフレットより >

− 砂漠のオアシス宰相府迎賓館へようこそ −

どこまでも続く広大な砂漠の中に、不意に姿を現す緑のオアシス。
車を近づければ美しい2階建ての洋館が見えてまいります。そこがこれから滞在する宰相府迎賓館です。
宰相府立国と同時に建てられて以来、100年の歴史を共に歩んで来た大変由緒ある場所でございます。

門をくぐりますと、ロココ調を思わせる優雅な白亜の宮殿があなたの目を奪う事でしょう。
さらに館まで続く外庭には、ふんだんに流れる水を利用した水路と花々があなたをお出迎え致します。
先ほどまで延々と続いた不毛な砂漠がまるで夢であったかのように思えるほどだと、
お越しになられた方からは、ご好評をいただいております。
また、正面のアーチの連なりの下は廊下になっており、この外庭の眺めを楽しみながら散策する事が出来ます。

散策に飽きられたら、お近くの給仕、家令にお声をかけてみて下さいませ。
飲み物の用意から、各種雑用に至るまでスムーズにこなす事はもちろんのこと、
建立以来、数多くの貴賓の方々に滞在して頂いた迎賓館、その歴史の中で起こりましたさまざまな逸話も聞く事が出来るでしょう。
中にはあなたにとって縁のある話があるやもしれません。

それでは、中へと参りましょう。





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 「迎賓館は宰相府藩国建国当初からある建物で、百年の歴史を持つ建物です」
  今度の取材は迎賓館の歴史紹介だそうで、同行していた秘書官の鐘音が三人に説明をしながら迎賓館を案内する。
  ちなみに『三人』である理由は、単純にQが説明を理解できていないだろうという事で頭数では除外しているだけだ。
  この場にいないわけではない。
 「当時の装飾・建築技術の粋を集めた建築物になります」
  その言葉に、迎賓館を見上げる。
  美術品の良し悪しが明確にわかるほどの目利きではないが、建物の持つ雰囲気は長い歴史を感じさせる代物だった。
  どうでも良いが、これだけ緑に溢れた芸術性の高い建物が砂漠地のど真ん中にあるのはやっぱり違和感を覚えてしまう。
 「荘厳にして華麗なる……ってやつだなぁ」
  以前訪れた時、Qが迎賓館を「貴族のおうち」と言っていたことを思い出して何気なく呟いていると、
 エミリオが納得したような顔で相槌を打つ。
 「僕の家にも負けていませんね」
  そういえばエミリオは世界貴族だった。
  エミリオのさりげない貴族発言に懐の軽さが哀しくなった。
 「建物そのものは、洋館の二階建てで左右対称。中庭を有するので上から見ると『ロ』の字に見えます」
  頭の中で迎賓館の間取りを開く。なるほど、確かに『ロ』の字だ。
  と、そこで髪の毛が引っ張られる。
 「どうした?」
 「『ロ』の字ってなに?」
  そういえばQは字が読めなかったな。などと思いながら掌に指で『ロ』の字を描く。
 「いわゆる、真ん中に穴の空いた四角だな」
 「ふぅん」
  良くわかっていない顔で返事をするQにちょっと頭を掻く。やっぱり、今度字を教えたほうがいいだろうか?
 「空の上から見るのが一番早いんだがな……」
 「見てきていい?」
  百聞は一見に如かず。考えたらQは飛べるのだから、口で説明するよりみてきた方が早いだろう。
 「いいよ? ただ、迷子にならないようにな」
 「うん!」
  Qは元気に頷くと、ぴゅーっと上昇していった。

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 「あれ?」
  説明を受けながら歩いていると、唐突にソーニャが立ち止まる。
 「どうしたの?」
 「ここの壁、向こうの壁より新しいですね」
  ソーニャが指差した壁を見比べてみる。
  確かに壁の色が違う。塗装や細工で入念に誤魔化してあるが、隣の壁と比べて新しい。
 「三十四年前にあった大規模火災の名残ですね」
 「大規模火災?」
  鸚鵡返しに聞き返すと、鐘音は頷いて解説をしてくれる。
  鐘音は「私も詳細は知らないのですけど」とは言っているが、相当酷いものだったようだ。
  話によると、事は三十四年前の深夜。
  突如として迎賓館で大規模な火災が発生。最終的には迎賓館の約半分が焼失するという事件だったらしい。
  当日、滞在中の貴賓客がいた事からテロの疑いも持たれたらしいが、原因は結局不明のままで迷宮入りしているらしい。
  幸いその貴賓客に怪我はなかったらしいが。
  その反面、使用人の方たちに多数の死傷者が出たそうで、
  迎賓館の地理上の問題――砂漠地のど真ん中であるため付近に病院などの施設が無い、移動が車限定のため
  医療チームがすぐに駆けつけられない等々――から充分な治療が受けられないまま亡くなった人もいるらしい。
 「それは大変でしたね」
 「ええ。修復にも十二年もかかったらしいです」
  ソーニャの言葉に鐘音が頷く。
  ただ、その時の教訓は現在に生かされているらしい。
  その一つが地下シェルターの整備で、
 十二年間にもおよぶ修復と並行して大規模改修が行われ現在のような形になったらしい。
  これによって維持費や手間は増えたものの、地上部が全滅しても地下シェルターでの長期避難生活や
 充分な治療を行う事ができるようになったそうだ。
 「過去の教訓は生かされているわけ……か」
  現在の迎賓館の設備の充実振りは、このような過去の犠牲もあってのもののようだ。
  それを聞いて、色違いの壁に向かって心の中で当時の犠牲者に黙祷を捧げた。

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  迎賓館の歴史解説は迎賓館本館から、迎賓館に展示された美術品の数々に移る。
  美術品も迎賓館同様に宰相府藩国建国の頃から少しずつ集められたものであり、迎賓館を語る上では外せないものだと言う。
 「香水塔は火事で焼けなかったの?」
 「ええ。運良く」
  迎賓館の半分が焼ける火災にあっても無事だったとは……。
  香水塔を作った職人もしくは芸術家にしてみれば、涙が出るほど嬉しかっただろう。
  まぁ、香水の香りそのものは普段使わないせいで、どうにも慣れないのだが。
  鐘音が急に立ち止まると、「えーと……確かこっちに……」と言って館内に向けて足早に歩き出す。
  それについてしばらく移動すると、鐘音がある美術品の前で立ち止まる。先ほど見て回らなかった区画のものだ。
 「一部が焼けた絵画と黒焦げの壷?」



 「迎賓館の火災の時、焼け残ったものです。
 この絵画は皇帝と宰相が気に入っていたもので、当時の使用人の女性が命がけで回収してきたものだそうです。
 一部焼けてしまったのですが、その心を無駄にしないために現在も残されていると聞いています」
  なるほど。と言う表情でガラスケースに収められた絵画を見上げる。
  おそらく、壷の方も似たような由来がある代物なのだろう。
  そんなことを考えていると、ふと頭の中で疑問が過ぎる。
 「この絵画に限らず、その火災で結構な数の美術品も焼けたんじゃ……」
  見て回った美術品の中にはガラスケースに納められた古いものから、
 普通に壁や廊下に展示されている新しいものまであった。
  それが一階の特別展示室以外にも至る所に点在していたので、火災で迎賓館が焼けたのならそれらも焼けているはずだった。
 「そうですね。ある人物から大量に寄贈があったので、今はそうでもないですけど」
 「ある人物?」
 「ええ。出自が少々複雑なんですけどね」

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  外に戻る道すがら、絵画を寄贈した『ある人物』について鐘音が説明してくれた。
 「ご存知の通りこの迎賓館には百年の歴史があります。
 この間には先ほどの火災のような事件もあって、この話はその中でも有名な話です。公式的には伏せられていますが」
  伏せられているのに有名だというのもおかしな話だ。
 「今年、迎賓館完成百年を記念して百年祭が行われますが、
 五十年前にも完成五十年を記念して五十年祭と言うものがあったんです」
  鐘音はそこで一度言葉を区切る。雰囲気からして、ここからが本題だろう。
 「この五十年祭は帝國、共和国問わず貴賓客が訪れて行われた盛大なものだったのですが、
 この五十年祭が縁で、駆け落ちした帝國皇女と共和国大使がいたんですよ。
 最終的には公式に婚姻が認められて迎賓館で結婚式が行われたのですが」
  なるほど。そりゃ伏せたくもなるなと考えを改めた。
  帝國皇女……今で言えばポチ王女か。
  それが共和国の大使と駆け落ちしてしまったのでは、共和国を敵としている帝國としては面目が立たないだろう。
  むしろ、良く帝國がそれを許したものだと思う。
  こういう話をあまり勘繰りたくはないが、共和国と裏取引でもあったのだろうか?
 「きっとソーニャみたいな人だったんだね」
  そこでエミリオがさりげなく惚気る。多分、本人は惚気だと自覚していないであろうが。
  ソーニャがエミリオの結婚を知って、エミリオを攫って行ったという話は有名な話だ。
 「エミリオを他の人に渡すくらいなら私のものにするって決めていたから……」
  そして、ここで負けず劣らず惚気始めるソーニャもかなりのものだ。
  ちゃっかり抱きついている辺り、只者じゃない。砂糖が欲しい。
 「あ〜。で、その二人が寄贈したんですか?」
  いちゃつく二人を無視して話を進めることにする。
  鐘音も同意見だったのか、二人から極力視線を逸らして話を続ける。
 「いえ。寄贈されたのはそのお二方のご息女です。巷で有名な画家として活躍していまして、
 ご両親の恩返しに自分の描いた絵と知り合いから集めたという名画を寄贈したのだそうです」
 「へぇ……。画家になっていたのですか。てっきり王族関係者のままかと思っていました」
 「現在展示されている絵画で新しいものの多くはその方が描かれたものですね。
 新たに収集してもいますが、数の上ではまだまだ寄贈された絵画の方が勝っています」
  どういう人物なのだろう。その人物は。
  未だにいちゃつき続けるソーニャとエミリオを可能な限り無視しつつ、その人物について思いを馳せるのだった。

  ――二十分後。
  しばらく続くその光景から目を離して額を軽く押さえる。頭痛がしてきた。
  鐘音の解説から派生したソーニャとエミリオのいちゃつきは未だに終わりを見せていなかった。
  長い。とにかく長い。そろそろ対抗手段を講じないと砂を吐いて倒れそうだ。
  対抗手段は四つ。
  即ち、ひたすら耐えるか、によによしながら眺めるか、負けず劣らず誰かといちゃつくか、戦略的撤退をするかだ。
  耐えるのは既に充分やった。
  眺めるのはそろそろ終わりにしたい。
  誰かといちゃつくと言っても、Qは迎賓館を上から見に行っていていないし、鐘音は相手がいない。
  野郎二人でいちゃつくのは当然却下。
  そうなると、必然的に残るのは一つだけになるわけで……。
 「……次行きましょー、鐘音さん」
 「……そうですね。行きましょうか」
  こういう時、ガルガムめー。などと言えばいいのだろうかと思いつつその場を後にする。
  ソーニャとエミリオが追いついたのは、それから二十分くらい経過してからだった。

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 「寄り道をしてしまいましたが、皆さんにお見せしたかったものがあれです」
  改めて外に出て移動した後、鐘音が指差したのは一本の植物だった。それもかなり大きい。
  そして、その植物の傍でくるくる飛んでいる羽妖精が一人。
 「……Q。何しているんだ?」
  呼びかけられて気が付いたのか、Qがそのまままっすぐ飛んでくる。
 「あれ? Qちゃん今までどこに行っていたんですか?」
  気が付かなかったらしいソーニャがそう訊ねたので、代わって答えることにする。
  説明しなおすのも面倒だった。
 「迎賓館が上から見たら、本当に『ロ』の字になるのか見に行っていたんですよ。な?」
 「うん! 四角だったよ!」
  Qが元気に頷く。ちゃんと見てこられたらしい。
  その答えに微笑んでいると、何かを思い出したのかQが先ほどの植物を指差して訊ねてくる。
 「ねー。あれなに?」
  それに答えたのは、あの植物を見せようとここまで案内してきた鐘音だった。
 「あれは竜舌蘭という植物です。メキシコを中心に米国南西部と中南米の熱帯域に生息する植物なんですよ」
  聞きなれない名前にQと共に首を傾げる。まぁ、Qの故郷はウェールズ――イギリスだから知らなくて当然ではあるのだが。
 「この竜舌蘭は共和国の方から贈られたもので、だいたい三十年周期で開花します」
 「随分花が咲くのが遅いんだね」
  エミリオの感想に鐘音は頷きながら答える。
 「ええ。気候や土壌にも左右されますけれどね。
 熱帯地方では十年から二十年、日本では三十年から五十年くらいの周期で開花するそうです」
  一同、ほうほうと感心したように頷く。
  共和国からこういうものも送られていたのか。
  黒麒麟藩国の藩王が宰相の弟だったり、竜舌蘭が贈られていたり、駆け落ちがあったりと
  意外と帝國と共和国の戦争以外での接点は多いようだ。
  もっとも、それを口に出したらどうなるかわからないから黙っているが。
 「この樹、元気だね!」
  竜舌蘭を見上げるQがそう言って笑う。本当は樹ではないのだが、と思ったが黙っておく事にした。
  Qの笑顔に応えるように笑うと相槌を打つ。
 「そうだな。花が咲いているところを見れないのが残念だな」
  その言葉を待ってましたとばかりに鐘音が微笑む。
 「そう言うと思って、咲いている当時の写真を用意しておきました。
 迎賓館でしか飲めない、ここの竜舌蘭から作ったテキーラも用意したので味見してください」
 「……テキーラって、飲酒できるのが何人いるんだ……? しかも仕事中だろ?」
  その問いを鐘音は笑ってスルーすると言葉を続ける。
 「女性陣には竜舌蘭の花をあしらった装飾品も用意しています。
 この装飾品、迎賓館滞在者でしか発注できない高級品なんですよ」
  「わ〜」と目を輝かせるソーニャに「よかったね」と笑いかけるエミリオ。
  その光景は微笑ましいが、果たしてQのサイズにあうようなものがあるのだろうか? それが目下の悩みだった。

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 「やっぱり、百年も歴史があると色々な話がありますね」
  ソーニャが写真を見ながらそう呟く。
  その言葉に、それぞれが手にした当時の写真を見ながら頷く。
  確かにたかだが百年ではあるものの、その内容はさまざまなものがあったし面白かった。
 「今回紹介したのは迎賓館の歴史の中でも有名なものばかりです。他にも話はありますよ」
 「他にもあるの?」
 「ええ。もちろん他にもありますよ」
  エミリオの問いに鐘音はそう答えて別の写真――ほとんどアルバムのような状態のものだったが――を持ってくる。
 「これがですね――」
  その後しばらく写真を見ながら鐘音の話を聞く状態が続く。
  一同も頷いたり質問したりしながら話を聞いていると、突如鐘音の視線が一点で止まる。
  不思議に思った全員がその視線を追う。行き着いた先にいたのはQだった。
  一生懸命通常の人間サイズのグラスを傾けている。
  Qが何をしているのか、その思考が繋がるまでに若干の時間を要した。
 「……って、おい! テキーラ飲むなよ! しかもオレのだし!」
  「ほえ?」とした表情で顔を向けるQの顔は赤かった。間違いなく酔っている。飛び方も何だか危なっかしい。
 「ふらふらするー」
 「そりゃ、オレたちサイズのグラスで一杯全部飲めば酔っ払うって」
  空っぽになったグラスを視界の端に収めながら言う。
  人間に換算するとどれくらいの量なのだろう。
 「……まぁ、迎賓館とお酒と酔っ払いは切っても切れない縁ですから……」
  ちょっと呆れたように鐘音が呟く。
 「何か逸話でもあるんでしょうか?」
 「ええ。迎賓館でパーティがある時に良くあることなのですが――」
  鐘音とソーニャが迎賓館であった酒席での話を始める。話を聞きたいのは山々だったが、それどころではなかった。
  酔ったQをなだめるのに四苦八苦したのは言うまでもなく、
 結局Qが素面に戻るころには歴史紹介は終わってしまっていたのだった。


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パンフレット紹介文: ソーニャ/ヴァラ/モウン艦氏族/スターチス@世界忍者国
SS: 那限逢真・三影@天領
画像: 乃亜T型@ナニワアームズ商藩国