【池】
池とボート
薔薇園を抜け、左回りの観覧コースを進むと、そこには大きな池があります。
冬の園のほぼ中心部に位置するこの池は、名を「静寂ヶ池(しじまがいけ)」といい、その名の通り水の音以外には雑音の一切聞こえない、静けさ漂う空間として親しまれています。
岸に敷設されているボートでこの池を遊覧することもでき、冬薔薇園の中でも、静かな場所で2人きりになりたい恋人たちに特に人気のあるスポットです。
ボート乗り場は南岸に一カ所しかありませんが、これは池全体も観覧コースとして設計されているためです。
透明度の高く澄み切った水面に映り込む色鮮やかな薔薇は「鏡薔薇」と称され、このボートに乗っているときに最も美しく映えると言われています。

中州に咲く青薔薇
また、ボートに乗れば池の中心に据えられた中州にも行くことができます。
薔薇園は中州にもあり、池の外側の薔薇園とはまた異なった種類の薔薇を見ることができるでしょう。
池の中央にあるためにどうしても水分を多く含みがちな中州の土壌は、庭園の管理者であらせられる宰相のご発 案により、島の外縁に土壌の水分を感知して排水、給水を行う装置を組み込むことにより乾燥した土に適した薔薇の生育も行えるように工夫がなされています。
また、冬の園は雪や霜の影響下にある施設であるため、薔薇に対する寒さ対策は特に念入りに行われています。
地中に熱源を配することにより、霜による根の凍結を防ぎ、また葉花に小まめな手入れをすることで、降雪で枝が折れないようにもしています。
私たちの見えないところにも、薔薇をより美しく育てるための様々な試みが存在するのです。
宰相の雪像
そのような中州の中でも私たちの目を引くのが、周囲を薔薇園に囲まれるようにして立つ、薔薇園の管理者、宰相の雪像です。
全長およそ3m。専門の雪像師が毎日成形を担当しているこの雪像は、宰相のご指示によりその日その日の宰相のご気分に合わせ表情、服装、はたまた老若男女(!?)までが変化するとされています。
一つとして同じものがないこの雪像を見るためだけに来るリピーターも数多く存在します。
夜間は周囲からライトアップされることにより、夜闇の黒と雪の白が見事なコントラストを描いている様子は圧巻です。
……が、冬の園の夜はとても冷えることからボートに乗って池を渡ろうという人がほとんどいないため、夜間中州を訪れる観光客はほぼ0に等しく、大抵の夜は雪宰相が一人で薔薇を眺めています……。

宰相の雪像(夜)
このようにして昼夜を問わず薔薇園を見守る宰相の雪像ですが、人々の間でまことしやかに囁かれていた噂に、次のようなものがあります。
「満月の夜に月が天の頂に達する頃、何も見えない闇の中ただ1点だけ、いつもは宰相の雪像がある場所に月光が一筋差し込む。
どのような試練にも負けない強い心と、相手を信じる愛情を備えた恋人同士がその光の中に入ると、銀色の光の中からやがて1脚の卓と2脚の椅子、1組の杯、葡萄酒が現れ、そこで杯を交わした2人は永久の愛を認められる」……というものです。
これは帝国三大悲劇(バレエ・オペラ)の題材としても広く知られている帝国の古いおとぎ話「雪の騎士と薔薇の姫」に由来する噂です。
もっとも、この噂に興味を抱いたカップルが満月の夜に一晩かけて雪像の前に泊まり込み、尚且つビデオで撮影を続けたにもかかわらず、
映っていたのは輝くような笑みを浮かべる雪宰相だけだったことが広まってからは、すっかり廃れた噂になってしまいました。
しかし、噂の通りであれば月の光が振り注ぐのは「強い心と愛情を備えた恋人同士」です。
もしも試してみたい人がいましたら、満月の夜を選んで冬薔薇園の静寂ヶ池を訪れてみてはいかがでしょうか?

「・・・・・・。案内嬢をはじめてはや○年ですが…」
「何故…よりによって宰相の像なのか未だにわかりません」
「帝国七不思議のひとつと言われています」
「深く考えてはいけません!」
「そうだ!【雪の騎士と薔薇の姫】に興味はありませんか?」
「ありますよね?・・・・・・あるといいなさい」
「(アレを忘れるためにも)私が聞かせてさしあげます」
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