帝國軍事院

付け焼き刃の軍事講座 前編(曲直瀬りま@FVB/聞き手:きみこ@FVB)

【曲直瀬りま:以下まなせ】「軍事ってのはひたすら奥深く、その時代や国によっても常識とかセオリーは変わります。その上、アイドレス世界では、剣あり、戦車あり、ロボットありと、過去も未来も魔法も科学も、すべてがごた混ぜになっていますので、用語の説明1つにも苦労します」
【きみこ】「ふうん。そうなんですか」
【まなせ】「そうなんです。けれど、そこはそれ。アバウトでファジーをモットーに、なんとなく、アイドレスにも出てくる軍事用語とかについて、必要最低限の話だけしてしまおうというのが、このページの主旨です。あくまで初心者対象に大雑把な話をするというものです」
【きみこ】「はあい。軍事用語っすね。そんなマニアックな話、解るかな」
【まなせ】「まあ、基本は現実の話のまとめで、それに加えてSFとか歴史の話とかでもアイドレスに関係しそうな話は紹介してみたいですね」
【きみこ】「おっし、了解。来るなら来い!」
【まなせ】「ではご笑覧あれ」


戦いは数だよ、アニキ!〜戦闘ってなんだろう?

戦略と戦術について考える

 軍事関係では良く「戦略」「作戦」「戦術」などという言葉が聞かれます。時代や国によってこれらの定義は変わりますが、ごく大雑把に解説してみます。
 「戦略」とは、戦争目標を達成するために、広く長期的な視野から人や兵器などの資源を効果的に配分するための技術。アイドレスでいうなら、イグドラシルのツリーでどのようなアイドレスを取得し、誰に着せ、どのような目的で、どのイベントに参加させるかを決めるなどの行動が「戦略」といえます。  一方、「戦術」とは、個々の戦闘において勝利を得るために、どう与えられた部隊を運用するかという技術です。アイドレスでいうなら、そのイベントに参加した兵力をいかに動かすか、どのARで詠唱戦を仕掛けるか、近接戦闘と遠距離戦のどちらを選ぶかという選択が「戦術」といえます。
 「作戦」は、ここではあえて気にしません。ゲームの段階では、あまり分けても意味がないと思われるからです。

【きみこ】「そうすると、作戦っていうのは何?」
【まなせ】「定義次第かなあ。戦術以下の個々の部隊の行動について決めることをいうこともあれば、さまざまな戦術を統合して動かすことをいう場合もあるので」
【きみこ】「じゃあ、『バルジ大作戦』ってのは?」
【まなせ】「あ、映画の? あれはドイツ軍がアルデンヌの森から攻勢をかけたため、戦線が突出してバルジ(出っ張り)状態になったから付けられた映画のタイトルで……」
【きみこ】「え、バルジって地名じゃないの!?」
【まなせ】「思いっきり違います」

戦略がいちばん大事

 戦術と作戦の違いは無視してもかまいませんが、戦略の存在は無視してはいけません。つまり戦略として決められた基本の「戦争目的」と、その目的を達成するために「どれだけの兵力を用意するのか」は最初にきちんと確認しましょうということです。
 いちばん良いのは戦わずに自分たちの集団の目的を達成することです。そして2番目は敵を圧倒する大戦力を集めて一気に正面決戦に勝利することでしょうか。「戦いは数だよ、アニキ!」の言葉はいつの時代も真理です(それを覆せるのは神話的英雄だけです)。しかし、そんな贅沢は滅多にあることではありませんから、みんな苦労するわけです。
 たとえば、とにかく負けないことを第一に、その間に状況が変化することを期待することは持久戦略ですし、自分たちの軍事力をアピールして「手出しすると火傷するぞ」と威嚇するのは抑止戦略です。そして、それぞれの目的のために、必要な準備をするところまでやれば完成です。

戦術も疎かにしているとタイヘン

 文章でも戦術でも大切なことは「5W1H」

【WHY】何の目的で。つまり「行動方針」。これも難しいこと、細かいことを気にしたらきりがありませんが、何が何でも敵を全滅させないといけないのか、時間稼ぎで敵を引きつけていればいいのか、あるいは敵のボスだけ倒せば良いのか、この違いで以下が大きく変わります。

【WHO】どの部隊が。それぞれの部隊に得意な任務はあります。特性を活かせる任務を割り当てましょう。、

【WHAT】どの目標を。火力の強い敵から倒していくのか、倒しやすい敵から倒していくのかを考えます。

【WHERE】どの方向から。いつでもバカ正直に正面から攻撃するわけではありませんが、敵が周囲に気を配っている状態で背後から近づいても気づかれてしまいます。そのあたりを考えて目標を割り振るわけです。

【WHEN】どのタイミング/ARで。あるいは夜明け前であるとか、月のない夜だとか、時期とタイミングを選ぶ余地があるならしっかり選びたいものです。それを選べるようにお膳立てするのは「戦略」の仕事です。

【HOW】どうやって。具体的に個々の部隊に何をさせるかということです。

【きみこ】「私らが普通に考える作戦というのが【HOW】の部分ですね」
【まなせ】「そう思っておいてください」
【きみこ】「【いのちだいじに】とか【ガンガンいこうぜ】みたいな感じスか?」
【まなせ】「うーん。それっぽく言い直すと『防御に徹して、増援を待つ』とか『燃料や資源の消費を気にせずに、積極的に攻勢をかける』とかになりますね。まあ、他にも「装甲の厚い部隊を前面に立てて」とか「偵察兵に弾着観測させて砲撃支援をする」といったアイデアがこの部分にあたります。思いつかないときは小説や映画を見て研究してみましょう。」
【きみこ】「半端に映画見てると、私みたいに半可通になるよ?」
【まなせ】「思いっきりマニアックな戦争映画を見れば? 『鬼戦車T−34』とか。それから戦闘序列を把握することも大事かな」
【きみこ】「……戦闘……なに?」
【まなせ】「あ、既にここに敷居が。戦闘序列ってのは、オーダー・オブ・バトルともいって、戦争時の部隊組織のこと。海軍の場合は戦闘に参加する艦艇の並び方とかだけれど、ゲームのときに『戦闘序列を提出してください』と言われたら、陸軍式に戦闘に参加するキャラクターやユニット全部の能力とか指揮を担当する者が解るリストを提出しろってこと」
【きみこ】「部隊リストを難しく言ってるだけね☆」

攻撃

 敵を追い払ったり降参させるために、こちらから戦闘を仕掛けることです。
 簡単にいうとこれだけなんだけれど、目的によって、敵兵をどこまでも追っていくのか、支配するエリア/領地を増やしていくのを優先するのかで動きが違いますし、敵に挑むにしても正面から突破するのか、包囲して殲滅するのか、それとも迂回して横や背後から襲ったり別目標を求めるかという違いがあります。しかし、待ちかまえている敵の正面から突っ込むのは損害も大きいですから、普通は包囲や迂回ができないかをまず最初に考えるものです。

防御

 要するに「守り」のことです。  とにかく塹壕を掘るなどして守りをしっかり固める陣地防御と、攻撃側の動きに合わせて引けば押せ、押されれぱ引けと柔軟に部隊を動かし、攻め手の一部が飛び出しすぎたら控えの部隊を迅速に動かして叩きつぶしていく機動防御などがあります。
 もっとも陣地防御は充分な陣地構築する時間と資材が必要という欠点がありますし、機動防御には各部隊が連絡を取り合ってしっかり連携しないとたちまち崩壊する危険性があります。

防御側3倍の法則

 一般には知られていないようですが、シミュレーション・ゲーム好きな人間の常識です。守りに入っている相手には、3倍の戦力を持ってきたら何とか優位に立てるということです。
 つまり戦力的に敵と互角か不利だと思ったら、逃げるか守りに徹しろということ。そこで攻撃を選択することを「英雄的自殺行為」あるいは単に「愚行」といいますが、場合によっては捨て駒のつもりであえて攻撃させ、その間に別のところでより大きな戦果を手に入れようとする場合もあります。
 攻撃する側から見れば、互角の相手が守りに入ったのなら無理に攻撃せず、別の目標を攻撃するとか包囲して相手の消耗を待つなどの選択肢が与えられることになります。

塹壕

 「誰だって死ぬのはイヤだもんね」というわけで、戦場に到着した兵士が真っ先に始めるのが塹壕堀り。地面に人が隠れるくらいの幅の溝を掘り、それをひたすら伸ばしていきます。目的はもちろん、敵の銃弾や砲弾を避けるため。避けて移動するだけでなく、最低限の頭と手だけ出してこちらから撃ち返すためにも有効です。
 時間があってしばらく動かないつもりなら「要塞」「陣地」を作るかも知れませんし、時間がなければ1人が入れるだけの穴を掘ります。これは「タコ壺」壕といいます。リー・マーヴィンの映画『最前線物語』では、戦車にタコ壺ごと踏みつぶされて兵士が絶叫するシーンがありましたっけ。戦車はこの塹壕を突破するために生まれてきた兵器なのです。

陣地攻撃のあれこれ

 陣地や要塞に立てこもると、防御力は高くなりますが、機動性がなくなります。敵に自分の位置がバレバレになりますから、迂回されたり、包囲されたりする危険もあります。
 第二次大戦前、フランスはドイツとの国境にマジノ線と呼ばれる要塞線を築きました。国境線に難攻不落の要塞をずらりと並べることで防御力を高めようとしたのです。しかし、ドイツ軍は要塞を迂回してしまい、アルデンヌの森からあっさり国境を突破してしまいます。つまり、相手にも選ぶ権利があるわけで、陣地戦を選択した時点で相手に手番を与えてしまうということです。

【きみこ】「守るだけでもダメっていったら、どうしたらいいんです?」
【まなせ】「相手がイヤでも攻めてこなくちゃいけない付加価値を要塞に付けるってのが1つ」
【きみこ】「それから?」
【まなせ】「陣地戦を選択するときには、防御を整えると同じくらいに力を入れて周囲に偵察部隊を送り出して警戒し、敵が迂回するようであれば側面や背面から攻撃に打って出るくらいの柔軟性を持つようにするってことかな」

後退

 逃げること。
 大別すると、優勢な敵の進撃速度を弱めるために戦いながら後退する「遅滞」、反撃の態勢を整えるためにいったん後退する「離脱」、とりあえず今回は敵との戦いを諦め、ずっと離れた場所までひたすら逃げる「離隔」の3種類となります。しかし「離脱」や「離隔」の場合、ただ逃げるだけでは背後からの攻撃で、そのまま留まって戦うより酷い目に遭うのはゲームで身にしみているかと思います。
 そこで味方が逃げる時間を稼ぐ役目の部隊のことを「殿(しんがり)」といいます。「殿軍(でんぐん)」というと強そうですが、つまりは全員で戦っていても負けていた優勢な敵を相手にして、その攻撃をわずかな兵だけで長時間食い止めなくてはいけないのですから、生還は困難な仕事です。かといって、どうでも良いような捨て駒の部隊に任せていては、あっという間に蹂躙されて何の役にも立たないことになります。

【きみこ】「なんで、殿様と書いて最後にするのかねえ?」
【まなせ】「殿様が責任取って置き去りにされるからでない?」

伏撃

 伏撃(ふくげき)とは、簡単にいうと「待ち伏せ」のこと。
 うまく囮を使ったり、敵の情報を事前に入手して、こちらが察知されないようにして戦力を集中させている場所に、敵をおびき寄せて攻撃を仕掛けることです。
 榊版『ガンパレード・マーチ』で荒波小隊が得意としている「釣り野伏せ」による三面包囲は伏撃の一種。

背水の陣

 中国の故事で、漢の韓信が寄せ集めの弱兵を戦わせるために川を背にして部隊を配置したことから来た言葉。逃げようと思ったら溺れるほかないわけで、それでは弱兵といえども死にものぐるいで戦うしか無くなります。つまり「無理矢理に絶体絶命の状況に自らを追い込んで奮起させる」という意味です。相手から見れば「窮鼠猫をかむ」。
 だから、戦いにあっては楽に敵を全滅できそうなときでも、あえて敵に逃げ道を残してやるというのがセオリーです。

【きみこ】「ガンパレでも包囲して叩こうとするより、逃げていくのを後ろから攻撃した方が戦果を上げられますもんね」
【まなせ】「そうだね。まあ、戦闘では経験則から、兵の3割が死んだらその部隊は全滅したものと判断するそうです」
【きみこ】「どうして?」
【まなせ】「だいたい死者の倍くらいの負傷者とか行方不明者が出ているものなので、死者3割なら全体の9割が戦闘不能という計算です。最初から全部やっつけようと思わなくて良いのです」
【きみこ】「なるほど! アイドレスの戦闘イベントで、ある程度敵をやっつけたら撤退して大勝利☆というのも同じ理屈ですね」

白兵戦

 刀剣はきらきら陽に白く反射することから、刀剣主体の近接戦闘を白兵戦といいます。
 白兵戦能力は高い方が良いけれど、敵と至近距離で戦うわけで、背水の陣だろうとなんだろうと、できることなら避けたいものです。ほら、『宇宙戦艦ヤマト』だって『機動戦士ガンダム』だって、白兵戦ってのは最後の最後のぐちゃぐちゃ乱戦なわけで、勝っても負けても満身創痍ってのが本来の姿なのです。長距離射程の兵器を持つ相手に、わざわざ白兵戦を挑んで完勝なんてのは十傑衆かMH騎士くらいのものです。

【きみこ】「MH騎士ってヘッドライナーのことですか? こんなの例にされても解りませんよ!!」
【まなせ】「きみ、解ってるやん」

勝利の秘訣

 勝つための方法は簡単です。

  1. 敵より装備が良く練度も高い兵を、敵よりたくさん集め、
  2. 敵の位置・数・装備を少しでも早く把握し、
  3. 味方の位置・数・装備を少しでも長く敵に隠し通し、
  4. こちらの攻撃と防御に有利で、相手が攻撃や防御をしにくい場所で、
  5. できれば敵の手の届かないところから攻撃をしかける。

【きみこ】「簡単に言い切ったけれど、すごく難しくないスか?」
【まなせ】「うん。これらの条件をどれだけクリアできるかが、問題のすべてということになりますな。では次の章では、その条件について、もう少し詳しく紹介してみましょう」

『付け焼き刃の軍事講座』後編へ続く

『付け焼き刃の軍事用語』編へ続く

1700326:曲直瀬 りま:FVB
1700339:きみこ:FVB