■ 迎賓館百年の歩みとその一端 2 ■
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迎賓館の歴史解説は迎賓館本館から、迎賓館に展示された美術品の数々に移る。
美術品も迎賓館同様に宰相府藩国建国の頃から少しずつ集められたものであり、迎賓館を語る上では外せないものだと言う。
「香水塔は火事で焼けなかったの?」
「ええ。運良く」
迎賓館の半分が焼ける火災にあっても無事だったとは……。
香水塔を作った職人もしくは芸術家にしてみれば、涙が出るほど嬉しかっただろう。
まぁ、香水の香りそのものは普段使わないせいで、どうにも慣れないのだが。
鐘音が急に立ち止まると、「えーと……確かこっちに……」と言って館内に向けて足早に歩き出す。
それについてしばらく移動すると、鐘音がある美術品の前で立ち止まる。先ほど見て回らなかった区画のものだ。
「一部が焼けた絵画と黒焦げの壷?」

「迎賓館の火災の時、焼け残ったものです。この絵画は皇帝と宰相が気に入っていたもので、当時の使用人の女性が命がけで回収してきたものだそうです。一部焼けてしまったのですが、その心を無駄にしないために現在も残されていると聞いています」
なるほど。と言う表情でガラスケースに収められた絵画を見上げる。おそらく、壷の方も似たような由来がある代物なのだろう。
そんなことを考えていると、ふと頭の中で疑問が過ぎる。
「この絵画に限らず、その火災で結構な数の美術品も焼けたんじゃ……」
見て回った美術品の中にはガラスケースに納められた古いものから、普通に壁や廊下に展示されている新しいものまであった。
それが一階の特別展示室以外にも至る所に点在していたので、火災で迎賓館が焼けたのならそれらも焼けているはずだった。
「そうですね。ある人物から大量に寄贈があったので、今はそうでもないですけど」
「ある人物?」
「ええ。出自が少々複雑なんですけどね」
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外に戻る道すがら、絵画を寄贈した『ある人物』について鐘音が説明してくれた。
「ご存知の通りこの迎賓館には百年の歴史があります。この間には先ほどの火災のような事件もあって、この話はその中でも有名な話です。公式的には伏せられていますが」
伏せられているのに有名だというのもおかしな話だ。
「今年、迎賓館完成百年を記念して百年祭が行われますが、五十年前にも完成五十年を記念して五十年祭と言うものがあったんです」
鐘音はそこで一度言葉を区切る。雰囲気からして、ここからが本題だろう。
「この五十年祭は帝國、共和国問わず貴賓客が訪れて行われた盛大なものだったのですが、この五十年祭が縁で、駆け落ちした帝國皇女と共和国大使がいたんですよ。最終的には公式に婚姻が認められて迎賓館で結婚式が行われたのですが」
なるほど。そりゃ伏せたくもなるなと考えを改めた。
帝國皇女……今で言えばポチ王女か。それが共和国の大使と駆け落ちしてしまったのでは、共和国を敵としている帝國としては面目が立たないだろう。
むしろ、良く帝國がそれを許したものだと思う。こういう話をあまり勘繰りたくはないが、共和国と裏取引でもあったのだろうか?
「きっとソーニャみたいな人だったんだね」
そこでエミリオがさりげなく惚気る。多分、本人は惚気だと自覚していないであろうが。
ソーニャがエミリオの結婚を知って、エミリオを攫って行ったという話は有名な話だ。
「エミリオを他の人に渡すくらいなら私のものにするって決めていたから……」
そして、ここで負けず劣らず惚気始めるソーニャもかなりのものだ。ちゃっかり抱きついている辺り、只者じゃない。砂糖が欲しい。
「あ〜。で、その二人が寄贈したんですか?」
いちゃつく二人を無視して話を進めることにする。鐘音も同意見だったのか、二人から極力視線を逸らして話を続ける。
「いえ。寄贈されたのはそのお二方のご息女です。巷で有名な画家として活躍していまして、ご両親の恩返しに自分の描いた絵と知り合いから集めたという名画を寄贈したのだそうです」
「へぇ……。画家になっていたのですか。てっきり王族関係者のままかと思っていました」
「現在展示されている絵画で新しいものの多くはその方が描かれたものですね。新たに収集してもいますが、数の上ではまだまだ寄贈された絵画の方が勝っています」
どういう人物なのだろう。その人物は。
未だにいちゃつき続けるソーニャとエミリオを可能な限り無視しつつ、その人物について思いを馳せるのだった。
――二十分後。
しばらく続くその光景から目を離して額を軽く押さえる。頭痛がしてきた。
鐘音の解説から派生したソーニャとエミリオのいちゃつきは未だに終わりを見せていなかった。
長い。とにかく長い。そろそろ対抗手段を講じないと砂を吐いて倒れそうだ。
対抗手段は四つ。即ち、ひたすら耐えるか、によによしながら眺めるか、負けず劣らず誰かといちゃつくか、戦略的撤退をするかだ。
耐えるのは既に充分やった。
眺めるのはそろそろ終わりにしたい。
誰かといちゃつくと言っても、Qは迎賓館を上から見に行っていていないし、鐘音は相手がいない。野郎二人でいちゃつくのは当然却下。
そうなると、必然的に残るのは一つだけになるわけで……。
「……次行きましょー、鐘音さん」
「……そうですね。行きましょうか」
こういう時、ガルガムめー。などと言えばいいのだろうかと思いつつその場を後にする。
ソーニャとエミリオが追いついたのは、それから二十分くらい経過してからだった。
3へ続く >>>
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SS: 那限逢真・三影@天領
画像: 乃亜T型@ナニワアームズ商藩国