彼はまじめに聞いている私の顔を見るとカラカラと笑って再びグラスを傾けた。
 例えはよくわからなかったが、要するに同じ物質で構成されているはずなのに違うものがあるということなのだろうか。

「で、だな」

 一息つき、男が再び語り始める。

「この”海”は砂漠を吹き抜ける風の影響をもろに受ける。軽いからな、他の砂よりも。それゆえに常に”動く”と表現される。長い時間をかけて砂海を作っていた砂が別な場所に再び堆積するからだな。
 だけど実際、何千年もかけてやっと動くかどうかだ。そんなレベルの話じゃ”動く”なんて言わないだろ? だから龍の巣が”動く海”と言われる実際の理由はもうひとつある。
 砂龍が砂中を猛スピードで駆け巡りまくってるおかげで、地表が波を打つように不規則な隆起を見せるからだ。実際に見てみるとすげえぞ。漫画でモグラが地中を動き回るだろ? あんな感じに地表が盛り上がるんだ」

 そんな馬鹿なと私が笑うと、彼もまあ普通信じないよなと笑った。
 私は自分の前に置かれた並々と水が注がれたグラスを眺めながら彼に話の続きを促す。

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