動く海が砂漠にあると聞いて、それを人は信じるだろうか?
 否。私は信じない。海とはそもそもが塩水で覆われた広大な広さのものであり、それが砂漠にあるとは到底思えない。そもそもが波立つ以外、そう簡単に動くようなものでもない。
 しかし、果ての砂漠には確かにそれがあった。
 それは砂で出来た大海。名を、”龍の巣”という。

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「龍の巣? かまわないが、高いぜ?」

 男は安っぽいバーのカウンターに腰を下ろし、自分のグラスを傾けた。グラスに詰め込まれた氷がカランと音を立てる。
 私がカウンターに数枚の金貨を並べると、彼はにやりといやらしく笑ってそれを自分のポケットへ入れた。

「さって……じゃあまず龍の巣ってもんについて教えてやるよ」

 彼はカウンターの向こう、もっと遠くを見るように目を細め、思い出すようにして言葉を紡いだ。

「龍の巣ってのはようするに砂海だ。わかるだろ? 砂漠によくあるあれ。一面砂だらけでまるで海みたいーってやつだ。
 ふざけるのはいい? ああ、そいつはすまねえな。まあ端的に言えば純粋に細かい砂だけで出来た砂漠なんだ。例えるならアルコールの中に浮かぶ氷……わかりにくい? 要するに、砂漠の中にもう一つ別な砂漠があるってことだ」

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