瞬間、私は疲れきった顔に笑顔を浮かべ、走り出した。
 きっとあれこそが自分の求めていたオアシスだ、そう思って喜びながら走った。
 あの時の私は疲れすら忘れていたのかもしれない。
 砂に足を取られ、転びそうになりながらオアシスを目指して走る。走る。走る。
 だが、一向に辿りつく気配は無い。むしろ走れば走るほど遠ざかって行くような気すらする。
 遂に私は走るのを止めた。気が付いたからである、つまりはそう、アレは本物じゃない。蜃気楼なのだ、と。

 それから数時間経っただろうか。私からはすでに体力も気力も失われてしまっていたが、それでもまだ歩き続けていた。
 遠くにはまだオアシスの幻が見える。私はその事に内心呪いの言葉を吐きたい気持ちで一杯だったが、声を出すのも疲れるので黙って歩いた。
 気が遠くなるほど歩いて私は遂に倒れた。
 もう駄目だと思った。もう自分はここで死ぬのだと。
 そして私の視界が闇に包まれかけた、その時、目の前に突然、本当に突然としか言いようがない程に一瞬の間に……

 オアシスが現れていた。

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