コツコツコツ。
廊下にかかとを踏む音を響かせ、二人の男性が歩いてゆく。
「ははぁ、やはり貴方もその内の一人でしたか」
深く、濃い紺色の制服を身に纏った秘書官が、やはり、というような顔でこちらを見る。にこやかな笑顔だ。
「ええ。ですけど、本当はもっと別の場所にありましてね」
「と、いいますと?」
片一方の男性――まだ若い、丸めがねが似合わない青年が少しだけ恥ずかしそうにためらう。
「実は、帝國の航空機を自分で見たかったのです。私の所属する藩は、訳ありでしてね」
あえて隠しながら言うのを秘書官は悟ったらしい。
「いや、構いませんよ。技術としてなら参考にしたいですし、採用されるされないは別として、売り込みは歓迎です。興味があるのなら、もっと嬉しい」
「あ、ありがとうございます」
秘書官は満足したように口元を笑わせると、“第2事務検討室”と銀板に刻まれた扉の前に立った。
「こちらです。先ほど色々なお方達が、貴方と同じように売り込みに来ましてね。――先輩、航空機売り込みのお方が来ました。失礼します」
返事も待たず、青年はドアを開けた。
――目を、丸くする。
事務机の前に置かれた書類の山。うずもれる、犬耳。ぴくぴくと先端が振るえている。
「あ、あの、先輩? 先輩?」
むくり、と書類の山を押しのけ、額縁メガネをかけた“先輩”が起き上がる。
その目は疲れのためか、ひどく据わっている。
「・・・・・・どうした後輩二号」
「何で名前を出してくれないんですか」
「作者サービスだ」
作者サービスとはなんだろうと青年は思った。
「しかし、アレだな。よくもまぁこんなに航空機の案が出てくるものだな。馬力はすごいな。関心するよ」
書類の一枚一枚に書かれた設計図を見て、“先輩”はため息をつく。
そしてはたと、青年を見やり、少しだけ間の悪いように眼鏡を手のひらで押し上げた。
「・・・・・・失礼。担当者のヤマダだ。ありきたりな名前だが、よろしく。こう見えて飛行機は好きだ」
「あ、どうも。共和国から来ましたダナカです。よろしくお願いします」
軽い握手。初めて名前が出たヤマダは、無造作にばらまかれた書類の山を手早く片付ける。
「さて、売り込みですね。機体データを拝見させてもらいます」
ヤマダは緊張してかすかに震えるダナカの手を見て、少しだけ微笑んだ。
「なに、悪態はつかない。仕事だからではない。好きだからだ。どんな欠点があろうとも、採用にはいたらなくとも、人が丹精こめて練り上げた代物を嘲笑ったりはせんよ」
受け取った書類には、詳細なデータが書かれていた。