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 見渡す限りは砂、砂、砂
 砂以外に見えるものは無く、風の音以外に聞こえる音も無い砂漠で私はふらふらと歩いていた。
 砂嵐に巻き込まれ持っていた荷物も何もかも失い、体一つで砂漠を歩いていた私の足取りはおぼつかず、今にも地に倒れ伏してしまいそうであった。

 この時の私の風貌は白い布を頭に巻き、一枚布の貫頭衣。これだけ聞くと砂漠の民のようであるが、私は他の藩国から来た旅人であり、各地の伝承や伝説について調べ、研究する民俗学者であった。
 今回私が果ての砂漠を訪れたのは、ある一つの伝承が真実であるかを、その目で確かめたかったからである。

 その伝承とは砂漠の民に伝わる『彷徨いのオアシス』と呼ばれる伝承である。
 それは砂漠の民の男が今の私と同様に砂漠を渡っていた時の事だった。既に水も食料も無く、行き倒れかけたその砂漠の民の前に突然オアシスがが現れたという。
 そこには見た事も無い動物達が棲み、砂漠には存在しないはずの果実を付けた木々や草花が生い茂っていたそうだ。

 話を戻そう。
 足取りは重く、太陽の光から少しでも逃げるが如く下を向いて歩いていた私がふと顔を上げると、遠くに小さくオアシスが見えた。

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