- 宰相府藩国居住区 -

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入り口
大バザール
交通
学術区
芸術区
娯楽区
下町区
スタッフロール
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introduction

居住区―――

 そこには、宰相府藩国の住民のうちの大部分が住んでいます。
 水路で区切られ橋で繋がった4つの小区画と、商業の中心となる大バザールを合わせた、計5区画から成り、一国の国民の安息の地たるに相応しいだけの面積を持ちます。
 その広大な規模、そして生活に必要な施設が区内に完備されているという点を合わせると、ただの住居の集合体などではなく、宰相府藩国内の一都市として機能しているという事が判るでしょう。

 今回は、ある旅人の視点から見た、居住区の様子をご紹介していきます。
 そこにどんな人が住んでいて、どんな物があるのか。旅人の目を通してご覧下さい。

 旅人と共に居住区を回るうち、あなたは何かを得ることになるかもしれません。
 それが、あなたにとって有益なものであることを、祈ります。

 ―――居住区区役所、広報課


「見えてきましたね。思ったより……広いかもしれません」

 居住区を紹介したパンフレットから目を離して正面を見ると、そこには住宅らしき建物が一面に広がっていました。
一般家屋
 白くて背の低い建物と、黒くて背の高い建物が折り重なって並んでおり、遠目からは、さながらピアノの鍵盤のように見えます。

 ここは、居住区に入るための橋の上。私は、今日から居住区を巡って回るためにここにいます。
 目的は観光……もなくはありませんが、どちらかというと、バザール巡りが主な目的となるでしょう。
 ここには、他の区画にはない、不思議なアイテムが売られていると聞きます。
 ひょっとしたら、凄い効果を持った掘り出し物が手に入るかもしれません。


 何はともあれ、あとは橋を渡れば居住区に到着です。まずは、道に迷わないように自分の位置を確かめないといけません。
 外周部から入るなら、当然最初にたどり着くのは4つある小区画のうちどれかになるはずですが……。

 私は、再度パンフレットに目を移しました。居住区の全体図と、小区画についての解説のページを開きます。
 小区画について、パンフレットには、

『教育施設と学生寮の街、学術区』
『創作と工夫の街、芸術区』
『楽と遊と憩いの街、娯楽区』
『触れあいと探検の街、下町区』

と、それぞれ見出しが付いており、簡単な解説も載っていました。

 学術区は学問の街、芸術区は芸術の街、というように、おおよそ名前が街の在り様を現しているようですね。
 由来や成り立ちなどについても、軽く触れられていました。何でも、最初は下町区だけがあって、時代と共に娯楽区、学術区、芸術区の順で拡張されていったのだそうです。

地図。
フルサイズマップ

 私はパンフレットをしまうと、宿を探すことにしました。
 パンフレットに載っているような写真だけなら、ここに来る前にも見たことはあります。私は写真を見るためでなく、実物をこの目で見て、触れるためにここへ来たのですから。
 そのためにも、あまり時間を無駄に使うわけにはいきません。滞在期間中の宿だけ見定めて、すぐに各区画を回ることにしましょう。

 川に掛かった大橋をようやく渡りきり、いよいよ区内に足を踏み入れたその時、私は突然の横風によろめきました。
「わっ!!」
 多量の砂が舞い、私を打ちつけます。怪我をすることなどはありませんし、防砂用の上着はちゃんと着ていましたが、少し驚いてしまいました。
 砂漠の国であることからは、例えこれだけ潤沢な水を確保している宰相府藩国でも逃れられないようです。
 この砂と強い日差しと、この国の人達はどのように付き合って暮らしているのでしょうか。


「電力消費は多いねえ。ははは。クーラーはやっぱり人気だよ。室内暮らしが多くなるから」
 宿を案内してくれるという区役所の職員さんに、その辺りの事を質問してみました。
「発電はどうされているんですか? それとも他国から買い入れを?」
 旅をしていると、各国の生活環境の違いはどうしても目に付きます。貿易の流れも、同時に見えてくるものです。
「水力や風力は使っているけど……特徴的なのは太陽光発電かな。ほら、あの黒い建物を見てごらん」
公共施設
 職員さんは、遠くにある建物を指差します。そこには、黒く背の高いビルが二つ立っていました。
「あの建物は庁舎なんだけどね。ほら、背が高いだろう?
他の家は全然大きくないのに、あれやそこの、黒い建物だけ大きい。どうしてだと思う?」
 にこやかに訊ねられました。一見すると、前後の話が繋がっていません。
ですが、職員さんは冗談を言っている風ではありませんでした。
 私は少し考えてから、
「あの建物の壁は、太陽電池で出来ているんですか?」
と、答えの代わりに聞き返してみました。
 それなら、辻褄も前後の会話の流れも合います。本当にそんなことが出来るのかは、私にはわかりませんでしたが。
 すると職員さんは、
「そう、その通り! この区の公共施設などの大きな建物はね、みんなああやって、外壁を太陽電池で覆っているんだ。
だから他の家と違って黒い。大きい分、ガラスなんかを使うと反射光も酷いからね。中ではクーラーも使うし」
と、嬉しそうに答えました。
 なるほど、確かにこれだけ強い日差しなら、太陽電池を使えば電力供給源として優れているかもしれません。
もちろん、24時間発電を続けられるわけではないのでしょうが、水力や風力も使っているとの事でしたし、蓄電施設くらいはあるのでしょう。
 一つこの国に詳しくなれたことに感謝し、私は職員さんにお礼を言いました。

「じゃあ、俺はこれで。また何かわからないことがあったら、遠慮なく区役所を頼ってください」
 最後まで元気でにこやかだった職員さんと別れ、宿に荷物を下ろした私は、いよいよ各区を巡ることにしました。
さて、どこから回ることにしましょうか―――

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