「龍の巣にはいるってのはな。砂龍に喰われて砂の中か、砂に飲み込まれて行方不明のどっちかしかねえんだ。
 普通の砂なら人が歩いた程度で沈みはしねえんだけどな、あそこは違う。もともと柔らかくて小さい砂が集まって出来てるうえに、砂中を砂龍が動き回ってやがる。おかげで砂がいい感じに地表のものを飲み込むって寸法だ。砂漠の民も「龍の巣では立ち止まることなかれ」とか言ってたから、同じ場所に立ってたら半刻で戻れなくなるんじゃねえかな」

 動いたら今度は砂龍に察知されるじゃねえか、と彼は笑いながら空になったグラスを揺らして氷を弄ぶ。
 そんな危険な場所に行きたがる人間が絶えないのは何故だ?

「そりゃあお前。真ん中ってやつを見てみたいからじゃねえのか? 登山家で言う「そこに山があるから」ってやつだ。
 あー、すまん。冗談だからそういう怖い顔すんなよ。
 まあ実際のところは砂龍だろうな。あいつらの肝がなんかの薬になるとかで高く売れるんだ、これが。
 もっとも肝を採るためには砂龍を狩らないといけねーわけだから、かなり危険がついてくるんだが……だからと言ってやめるようなやつはそもそもが社会でちゃんと働いてるわけだからな。俺みたいなやつが後を絶たないってわけだが、 俺はもう引退したよ。あんな目にあうのはもう懲り懲りだ」

 彼は”あんな目”を思い出したのか、一瞬だけへらへらしていた眼光に鋭さを宿した。
 会話が途切れ、バーに流れる古めかしいレコードの奏でる音に身を任せてそのまましばらく待つ。
 すると、こちらに根負けしたのか、それとも思い出に浸り終えたのか、彼は再び口を開いた。

「……冗談みたいなやつがいてな。俺はそれを王種って呼んでるんだが……巨大なやつだったよ。ほんと、冗談みたいに。
 砂龍に巨大化光線でも当てたようなやつなんだが、ありゃあもう別の生き物だ。強すぎる。化け物って言葉はあれのためにあるんじゃねえかなと思ったよ」

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