砂漠において水源は訪れるもの共通の休憩点だ。そこでは同じく砂漠を行くものたちと出会いがあり、交流があり、協力があり、別れがある。
 そんな中、ごく稀にだが砂の上にシートを敷いて露天を構える、貫頭衣を纏った謎の太っ……ふくよかな男と出くわすことがある。

 男はターバンで顔を隠しているためにその表情を見て取ることはできないが、唯一露出している瞳は吸い込まれるような深さと優しさの色が秘められており、それが常に何かを思案しているようにどこか遠くへ向けられている。
 貫頭衣の胸元には大きな茶色のネズミ型をした刺繍が施されているため、砂漠に詳しい者からは「ネズミ印」と呼ばれているらしい。

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