■ご案内ツアー 2■
宿舎を抜けてしばらく進むと、妙に高いフェンスで囲われたエリアが見えてきた。これまで見てきた各エリアも、もちろん警備が無いわけではなかったが、小銃を肩にかけエリア入り口を警備している衛兵の様子からは、それらとは明らかに異質な物々しさが感じられる。外から見ても広いエリアの全体を伺い知ることは出来ないが、大きな倉庫群がぱっとみて目立っていた。
「さて、お待ちかね。いよいよこの港の心臓部、造船ドックを中心としたエリアですね」
「すると、あそこに見える倉庫のような建物が造船ドックですか?」
これは結構自信があった。少なくともこの瞬間は。
「んー、残念。ま、入ってみれば分かりますよ」
なんだか苦笑してはぐらかされた。
が、その理由はゲートをくぐってその建物に近づくとすぐに判明する。
「あ……。なるほど」
目の前には先ほど大きく見えた倉庫のような建物がちっぽけに見えるようなとてつもなく巨大な長方形の穴がぱっくり口を開けていた。港の岸壁から陸側に地面を掘り込んだようなその穴は、海側と鉄製の水門で区切られており、その中には今まさに建造されつつある艦の姿が見える。艦のあちこちで絶え間なくアーク溶接の火花が舞い、けたたましい喧騒をあげていた。
「そう、これがうちの港の造船ドック。まあ、もう間違える事はないでしょう?」
「はい……」
そんな会話をしている間にもドックの周囲に設置されたクレーンからは次々と建造資材が降ろされ、組み立てられてゆく。
「ちなみに、このドックの先は艤装岸壁になっていて、ある程度船体が完成したら進水して作業を続けます」
「ああ、ということはその後こっちでは他の船の建造や修理をやれるわけですね」
「そう、よくできました」
にっこり笑うとけっこうかわいい。自分でも子供っぽいとは思うがこの笑顔が見れるならいいかなと思ってしまった。
造船ドックを抜けて再び移動を始める。心なしか砂っぽい熱風の中に潮の香りが強くなってきた。
「それにしても、こんな綺麗な人に案内してもらえるとは思いませんでした」
「うーん、そう言われて悪い気はしませんが、ここではあまり気軽にそういうことを言わない方がいいですよ?」
「あ……、すみません」
ちょっぴり気まずい沈黙が流れる。だが、周囲の活気に満ちた喧騒は、そんなちっぽけな沈黙もあっさり飲み込んでゆく。ちらりと横に目をやると、さっき水揚げされたばかりなのだろうか、ヘルメットをかぶった作業着の人達が大量の資材をフォークリフトを使って次々と倉庫の中に運び入れていく。他方では何やら書類とにらめっこしながら、資材の山をチェックしている人達がいる。そのほかにも色々せわしなく動き回っている人達の間をすり抜けるように、大きな倉庫の立ち並ぶ一角を抜けていく。すると突然、視界が開けた。
「さ、着いた。ここが埠頭、って、流石にこれは見れば分かるか」
と、こちらを振り返って少し苦笑した。つられてこちらも少し苦笑いする。なんとなく、さっきの気まずさは消えたようだった。
「いや、それにしても見事な光景です」
改めて周囲を見渡してみる。埠頭の全長は、おおよそ2Kmはあるだろうか。左手に見える大河と前方に見える海に挟まれた海側の面にずらっと埠頭が並ぶ。各所には資材の積み込みや水揚げに使用すると思われる、巨大なクレーンが何基も設置されていた。後方を振り返ってみると、これまた巨大なサーチライトが何基も設置されていた。
「やっぱりすごいな……」
改めてこの軍港の規模の大きさを思い知らされる。再び海上に目をやると、変な形の船が見えた。
「……ん、あの船はなんです?」
「ああ、あれは浚渫船」
「シュンチョウセン?それって何ですか?」
「あの船はね、ああやって定期的に海底をさらって、海底に沈殿した土砂を取り除いているのよ」
「なるほど……、でもそれなら、どうして土砂が河から流れ込む河口付近に港が作られたんでしょう?」
「元々、この辺りの海底は岩礁がほとんど無く、海岸から急激に落ち込む形状になっていてね、昔から良港として知られてきたのよ。実際、河を挟んだ対岸は古くから続く港町になっているね」
「そっか、利点の方が多かったんですね」
「まあ、これほどの大河なら流量の割に土砂の運搬作用は低いからね、こまめに手を入れてやれば、申し分ない良港なのよ。分かったかな?」
その後もあちこちを見てまわり、結局、この軍港を一通り見学し終えたのは紅い夕日が西の空に沈みかける頃だった。
「はい、これで見学は一通り終了。お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたー。今日はありがとうございました」
とはいえ、さすがに疲れた。今日はゆっくり休みたい……。
「ふう、海沿いだから幾分増しとはいえ、だいぶ埃っぽい中に一日中いましたからね。どうです、これから一緒に風呂にでも入りませんか?」
耳を疑った。
「え、いや。今なんと?」
「ですから、一緒にお風呂でもどうですか?と」
え、これは何だ。期待してしまっていいのか?あ、やばい、心臓がばくばくいってる。いかん、ともかく返事しないと……っ。
「あ、よ、喜んでっ」
……この後、風呂場に行った彼はその上官が少なくとも生物学的には男性である事を知って完膚なきまでに打ちのめされることになる。だが、それについて記すのは彼の尊厳に関わる気がするので、彼とその上官の名前は伏せた上で、続きはこれを読む皆様のご想像にお任せしたいと思う。
【終】
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