■軍港カレーフェスティバル 2■
○月△日 AM11:00 「とある料理人の事情2」
いよいよ、軍港カレーフェスティバルが始まった。
その昔、軍港の開港時に記念として作られたカレーのレシピが、軍人の間で絶品だと評判になった。
これをたまたまある観艦式に一般の人に振舞ったところ、「すごく美味しい」「もう一度食べたい」などと問い合わせが殺到した。
そこで、国民の海軍に対する理解を深めてもらうという目的もあって、年に数回、軍港カレーフェスティバルを行なう事になった。
いまでは、マスコットのカレーぐま「くま一等兵(通称:くまへい)」も誕生し、キャラクターグッズも販売している。
くまへいグッズは軍港カレーフェスティバルの時しか発売しないので、これ目当ての客も来るようになっているらしい。
そんなこんなで、軍港カレーフェスティバルは中々の盛況ぶりだ。
また、日頃、一般人と軍人も互いに触れ合うことで、士気の高揚にも一役買っている。
特に男女比が著しく偏った、軍人という職業では、女の子と触れ合える機会も増えると、別の意味でも士気が高まっている。
まあ、確かにカレーを作っているのも男。配膳係、給仕係も男。レジのキャッシャーまで見事に男だ。
浮かれる気持ちも分からないではない。
一部、違った方向に突っ走った奴は平然としてはいるが…。
○月△日 AM12:00 「とある料理人の事情3」
いよいよ忙しさのピークに入った。
次々と殺到する注文を捌きながら、切らしてしまわないように新たにご飯を炊いていく。
一番人気のポークカレーを筆頭に、コロッケカレー、シーフードカレー、葱カレーが後を追い、冗談で作ったハートカレーが食い下がっている。
軍港カレーフェスティバルにカップルもたくさん来るようになったので、「縁結びの効果バツグン! ハートカレー!!」という文句で新メニューが誕生した。
カレーの真ん中に、チーズでハート型を作ってある、それだけのものだ。
これはさすがに売れないだろう。と思っていたが、予想に反して意外に好評。
いまでは、デート情報誌なとでも取り上げられるカレーとなった。
「ハートカレー2つ。テイクアウトで」
また、ハートカレーの注文が入った。
早速、ご飯を盛り付けてカレーを掛ける。もちろんハートを作るのは忘れない。
「ハートカレー2つ テイクアウト OK」
配膳係にハートカレーを渡す。そして、ふと注文した客を見る。
あれは、海兵の… そうそう、先日婚約した整備のヤツの親友だ。
かわいい彼女を連れてる。ははは、上手くいってくれよ。
○月△日 AM13:00 「とある料理人の事情4」
先に休憩を取っていたのと交代して、休憩に入る。
何人かと連れ立って、港の方へまかない食を持って行く。
さすがにカレーはここ最近見飽きているので、コロッケをパンで挟んだ、コロッケサンドを作った。
港の外れへと移動すると、さっきハートカレーを注文した客がいた。
カレーは食べ終わった様で、脇に皿が置かれている。
いまは、お茶を飲みながらサンドイッチを食べている様だ。
ここには、カレーしか売っていないし、お茶も缶やペットボトルでは無い所を見ると、彼女が持参した様だ。
「いい彼女じゃないか。なんともうらやましいねぇ」
口元がによによとしてしまう。
横を見ると、一緒に来た連中も建物の陰に隠れて、見ている。もちろん、口元はによによしている。
「おい、場所変えよう。ここはあの2人だけにしてやろうや」
幸せそうに微笑む2人から目を離して、休憩場所を変える事にした。
ハートカレーの加護があの2人にあるようにと願いながら。
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○月△日 PM17:00 「とある彼氏の事情」
楽しい時間というのは、あっという間に過ぎていく。
もう彼女との別れの時間だ。
ついさっきまでは元気にしていたのに、いまは少し沈んだ表情をしている。
また、長い間会えなくなるからだろう。
戦艦に勤務している自分は、これから新たな任務でここを離れる。
職業柄、戦艦に乗っている間は携帯電話やメールも出来ない。
随分と寂しい思いをさせている事を、心苦しく思う。
ただ、寂しく思ってくれる事はとても嬉しい。
それだけ、想われているという事だから。
二人の間に訪れた沈黙と共に、フェスティバルゲートへ辿り着いた。
「サンドイッチと紅茶美味しかったよ。ありがとう」
「あのね、ハートカレー頼んでくれて嬉しかった」
お礼の言葉にお礼の言葉が重なる。どう答えようかと言葉を探している内に、彼女が明るい声で言葉を続けた。
「だから、また、ちょっと寂しいけど、また今度もハートカレー食べさせてね」
彼女の精一杯の言葉に、胸が熱くなる。彼女を好きなったのは、こういう所なんだと改めて思う。
「うん。分かった。一緒に食べよう」
出てきた言葉には自分でも情けなくなる。伝えたい事がたくさんあるのに、上手く言葉にならない。
「じゃあ、そろそろ帰るね。もうすぐ時間なんでしょう?」
職業上、守秘義務があるので、彼女には何も伝えていないけど、次の任務があるのはバレている様だった。
正直、とても名残惜しいが時間は待ってはくれない。彼女に軽いキスをして別れを告げる。
「また、連絡する。今日は本当にありがとう」
「約束よ。じゃあ、またね」
「ああ、また…」
そして、彼女を見送った。本当は家まで送りたかったが、任務に就かなくてはいけない。
さあ、仕事を頑張ろう。次のハートカレーの日のために。
<了>
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