下町区


 人が多い!そして道が狭い!
 これが下町区と呼ばれる区画に足を踏み入れた瞬間の率直な感想でした。
 4つある小区画のそれぞれに住んでいる人の数はほぼ同じという話でしたが、どう見ても他の小区画の2倍は人が居るんじゃないかと思いました。
 その分、他の小区画と比べて活気に溢れ、そこらじゅうから喧騒が聞こえてきます。
 さらに、本来の道は他の小区画と同じくらいの幅があるはずなのに、いたる所で露店が開かれているため、実際に歩ける場所はほんの少ししかありません。
 他の小区画でも、もちろん露店が集まるバザールはありますが、それらは全て刺す様な砂漠の日差しや砂を遮るアーケードの設置されているところに限った話です。
 しかし、下町区ではむしろアーケードの無い所に多くのバザールがあります。もちろん、日差しを遮るためのオーニング(布製の簡単な屋根)はしっかり設置されています。
 中には小さなテントを立てて、その中で商売を行う怪しげな露店もいくつかありました。
青空バザール
 これは数日滞在してわかったことですが、この青空バザールの開かれる場所は特に決まっているわけではないようです。たとえ同じ場所で開かれていても日によって出店してる露店はまったく異なりますし、数時間後に同じ場所を訪れると、まったく違う露店が商品を広げているということも当たり前です。
 この場所で買い物をする時の原則は、『気に入ったものがあったらすぐに買う』です。
 『他を見てからなんて言って、しばらくしてから買いに戻ってもさっきの露店はもう跡形も無くなっている』なんてことがよくあります。

 折角の旅行ですし、記念に怪しげなテントの1つに試しに入ってみましょう。
「こんにちは」
「…………」
 薄暗いテントの中には無愛想な店主が居るだけで、他にはいくつかの壷とその中に丸められた紙が入ってるだけのようです。
「ここは何を売っている店なんですか?」
「紙だ」
「紙ですか? えっと、この壷に入ってるのは?」
「絵だ」
「それではこちらのは?」
「文字だ」
「広げてみてもいいですか?」
「ダメ」
 さっぱり要領を得ない店主に諦めてテントから出ようとしたとき、丸まった紙が1つだけ入っている小さな壷が他の壷に隠れて置かれていることに気がつきました。
 一瞬そのままテントから出ようとしましたが、妙に気になったので一応聞いてみました。
「この小さい壷に入っている紙はいくらですか?」
「10わんわんだ」
 決して安いとは思えませんが、それくらいなら旅の記念にはちょうどいいと思ったので、思い切って買ってみる事にしました。
「買います」
 10わんわんを渡すと店主はニヤリと笑って、
「まいどあり。色々行ってみることだな」
 と言いながら丸まった紙を渡してくれました。
 よくわかりませんでしたが、とりあえず紙を広げてみました。

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    ID:idressplayer

   下・娯・移・学・芸・中
   町・楽・動・術・術・央

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 ……これはなんでしょう?
 IDということは何か認証が必要なところへ入る時に使うのでしょうか?
 IDの下にあるのは居住区内にある小区画の名前のようですが……???
「これは何ですか?」
「全て揃ったら何も売ってくれない露店を探しな」
 結局よくわかりませんでしたが、それ以上何を聞いても店主は答えてくれませんでした。

こんなこともありましたが、私はこの雑多で活気に溢れた下町区が気に入りました。




























































 ここで買い物がしたければ、合言葉が必要だ。
 ちゃんとそろえたかい?
いらっさいませ。
『合言葉は?』