帝國文族院

物語を書いてみよう (曲直瀬りま@FVB)

 真面目に小説の書き方を勉強したいなら、今はいくらでも新書や文庫で入門書が出ています。たとえば「小説作法」と大手の書籍通販サイトで検索してみれば、スティーブン・キングから大塚英志まで手頃な値段で、著名な執筆陣によるガイドがよりどりみどりです。個人的には『スペース・オペラの書き方―宇宙SF冒険大活劇への試み』あたりが(他人の作品を参考にする方法が詳しく)お勧めですが、今では中古でしか手に入りません。
 ともかく、本格的に学びたい人は別にいくらでも方法はあるということで、とりあえずここでは簡単に手順の一例だけを紹介してみます。

1)テーマを決める

 自分が語りたい物語のテーマを決めて下さい。この時点ではまだ詳しく決める必要はありません。資料を読んで浮かんだイメージ、自分が暖めていたストーリーを簡単明瞭に書き留める程度、映画や書籍などのガイドや批評で内容紹介をしている程度でかまいません。要はシナリオをつくる際のイメージの源になればいいのです。
 たとえば「とにかく転校生の少年と美少女が登校途中にぶつかるところから始まる話」とか「藩国メンバーで三銃士みたいな話をしたい」とか、とにかくどんな話にしたいか決めます。もちろん、書いているうちにまったく違ってしまうのは、よくあることです。

2)ネタ出ししてみる

 テーマから連想する事柄を、思い浮かんだ場面でもセリフでも、またそこから連想した映画や小説のタイトルでもどんどん書き出していきましょう。
 この過程に情報カードや付箋紙を使う人もいますし、『インスピレーション』のような発想支援ソフトを使う人もいますし、単にパソコンのメモ帳やエディターで闇雲に打ち込む人もいます。
 たとえば「写真の修整」「核査察」「ビバ!マリア」「ポケットには大きすぎる」などなど、それだけでは何を意味するか解らないかもしれません。
 思いつくだけ出したら、じっくり何度も読み返して、使えるネタの組み合わせがないか検討してみましょう。

3)プロットを考える

 テーマとネタを関連づけ、なんとか話全体の中身を考えてみましょう。
 実はここがいちばん難しいんじゃないかと思いますが、ここさえ乗り切ればあとは体力と勢いでなんとかなります。
 1人で難しければ、大勢で雑談しながらやると、意外なアイデアが飛び出してきます。たとえば一昨年とあるイベントではみんなでわいわいと「クトゥルフ神話を創作しよう」という企画が催されました。そのとき初めて顔を合わせた10人ほどが、いきなり「では、クトゥルフ神話ものの発端として、思いついたものを挙げていって」といわれて「やっぱり学園ラブコメの王道は登校途中の出会いだよ」とか「時事ネタは不可欠」とかてんで勝手にアイデアを出し、そこからみんなで連想しつつ話を膨らませ、同時に話を収束させるための関連づけもしていくことで、最終的に下記のようなプロットが完成しました。

「起」

・主人公がパンをくわえて走っている少女と登校途中でぶつかり、そこで取り違えたカバンの中に魔導書が。
・江戸時代、剣術の師範代が無惨な死体で発見された。
・ある独裁国家の指導者が、最近合成写真でしか公に姿を現さなくなった。

 どれか1つに絞って話を作る予定だったけれど、このままみんな採用して進めちゃおうか。
 じゃあ、これが発端だとして、次はどう展開するかな? お約束のパターンでも、単なる連想でも、意外な展開でも、とにかく出していこう。

「承」

・ガールフレンドがプチ整形。気がつくと女子生徒にプチ整形が流行。ぱっちりとした目(瞬きしない)、大きな口とか、お肌ツルツル。
・クラス閉鎖が相次ぐ。
・師範代の死を追求しようとした侍たちが恐怖の形相で石化して発見される。
・独裁国家が周囲の警告を無視して地下核実験を強行。

 では、「起」「承」で出してきたネタを、ここらでクトゥルフ神話的なネタで説明してみようか。話でいうとクライマックスだよ。

「転」

・独裁国家が魔導書を手に入れて邪神復活を画策している。
・主人公の高校生、いきなり独裁国の工作員によって死亡。
・工作員の狙いは魔導書。
・江戸時代の石化殺人の犯人はロイガー。
・石化=物質変換であり、魔導書は某国がロイガーを召還・従属させて、核施設を建設せずにプルトニウムを生成するのに使おうとしている。
・最初は生成がコントロールできず臨界に達して地下爆発。
・少年の魔導書は制御法で、秀吉の朝鮮役の際に持ち帰られたもの。
・少年の死体はヒロインによって食われる(あとで出産=転生ネタに使いますとの注釈)。

 主人公がいきなり死んでしまったけれど、クトゥルフ神話だからかまわないよね。
 じゃあ、なんとか“らしい”オチをみんなで考えよう。

「結」

・「アメリカ第7艦隊は某国の核攻撃によって大きな打撃を受けたが、反撃により某国の施設は壊滅した」らしいと報じられる結末に。
・ロイガーは召還させたけれど結局腐っていた。「なぎ払え!」「早すぎたのよ」「お腹の中にあなたが……」「まだ次があるわ」

 この程度のストーリーなら、ゼロから始めて90分で到達できます。他にも何度かやりましたが、だいたいいつもそれくらいです。
 このときはたまたまクトゥルフ神話ネタという縛りでおこない、その手の作品を読み込んでいる人が集まったわけですが、これは別に無名世界観でもなんでもいいわけです。いつものパターンは、その場に集まったメンバーに「どういう話にしたい?」から聞き始め、「西部劇」「ラブコメ」「魔界都市」とリクエストを取り、さらにどういう登場人物を出したいかまで多数決で決めていきます。そして氷河期に突入した世界でのサバイバルとか、宇宙時代の独立戦争とか、幕末ホラーとか、いろいろ話を膨らませていくのが好きです。最近はやってないから、寂しいな。

4)目次を考える

 起承転結を考えながら、プロットを目次の形に分割して再構成していきます。
 あまり大長編にすると手が付けられなくなりますし、短すぎると大雑把すぎてまとめる意味が無くなりますので、まあ、起承転結それぞれ2つの8章構成としてみましょう。
 ここで昔の小説っぽく、章のタイトルのあとに概要を付記すると解りやすいです。

★「起」物語の発端。導入部。

1.予兆 −石化した江戸の剣豪の遺体が発掘され、現代の独裁国家で指導者が姿を消すこと。
2.解逅 −少年が少女と恋に落ち、魔導書を手に入れる。

★「承」情報の提示と整理。

3.異変 −独裁国が核実験を強行し、新たに複数の侍の石化遺体が見される。
4.化粧 −原因不明の学級閉鎖があり、主人公は少女と結ばれる。

★「転」意外な展開を見せながら、物語は結末に向かって収束を始める。

5.密命 −主人公の周囲に謎の影。魔導書の解読が進む。
6.人喰 −主人公は何者かによって殺され、少女はその屍を貪る。

★「結」結末。謎と事件の解決。物語の終焉と新たな物語の予感。

7.暴走 −独裁国に世界の警察が制裁を試み、邪神が暴走する。
8.再生 −少女は主人公の再生を確信し、魔導書と共に姿を消す。

 こうやって目次にして並べてみると、なんとなく書ける気がしてきませんか?

5)とにかく書き進める

 こうして大枠が決まったら、一気呵成に書き始めます。書きにくいところは、箇条書きやセリフの羅列だけで逃げても良いので、とにかく最後まで一気に書き上げます。へたでもなんでも、『てにをは』とか文法とか気にせず、とにかく進めるしかありません。
 場合によったら、登場人物のセリフと情景の簡単な説明だけでもかまいません。

6)ゆっくり手直しする

 最後まで書き終わったら、後は締め切り/約束の日までゆっくり加筆し、修正し、セリフを足したり引いたり、説明や情景描写を足したり引いたりしながら、ぎりぎりまで手を入れます。
 最初は時間をかけられるだけかけて、そして少しずつペースを上げていきます。締め切りは守ってナンボですから、決められた期間内でどれだけ質を上げられるかが勝負です。
 慣れてくれば完成度は上がりますから、とにかく数をこなすしかありません。大長編よりも短い小品で、「自分の作品を完成させる」経験を積みましょう。そうすれば、少なくとも自分の作品の出来に我慢できるようになってくると思います。

 以上、簡単ながら文章の書き方について、一例を紹介してみました。
 これが何かの参考になれば幸いです。

1700326:曲直瀬 りま:FVB