桜の園
     

「ここは、桜の区画になります。
 一年中桜が咲いていて、桜並木の下には露店とベンチが並び、カップルに大人気の区画です、と…」
「わーほんとにカップルが多いです…わ、わ、あの木の後ろ…あわわ」
「惣一郎、近くにはみあたりませんね…」
「露店がたくさんあるので、人通りがほんとに多いです…もしかして、惣一郎も…」


「あ、あれ、あの横顔は…惣一ろ…!」
「ほら、買ってきてやったぞ。」
「わーい、ありがとー、そうそうそのたこ焼き。美味しいって評判のお店なんだよー。
 えへへ、待ってる間にチョコバナナも買っちゃった。屋台いっぱいあるから目移りしちゃうね。
 あれ?蝶子さん?」

 

(…じゃなかったよ、とほほ。がっくし)
「? なぜ、レンジャー連邦の藩王がこんなところに?…」
「不思議だねぇ」
「えっと、こんにちは。今日は、この春の園のガイドをしてるんです…」
「そうなんですねー お疲れ様です」
「大変だな」
「あれ、そういえば?今日は惣一郎さんはどちらに?」
「う…く…」 思わず溢れる涙
「Σ わ、わ、蝶子さん泣かないでくださいー」
「(女の涙は苦手だ…)一体何があったんだ。言ってくれれば力は貸せると思う」
「うんうん、そうです。力になりますよ。えっとベンチにでも座りませんか?」
「ご、ごめんなさい。取り乱してしまって…(ぐすぐす)」
「いいんですよ。いったい何があったんですか?」
「さっき、惣一郎とはぐれてしまったんです…」
「俺のくせに、愛する女を置いていくとは、風上にも置けない奴だな」
「……」
「そう睨むな。…もう黙って置いていったりしないから」
「絶対ですからね」
「ああ…」
「(らぶらぶだー)」
「まあ、俺の気配はこの区画にもあるようだ。そっちに向かって移動すれば会えるかもしれないな」
「ほんとですか?!」
「ああ、あまり俺自身は近づくわけには行かないが、方向くらいならな」
「ありがとうございます!」
「わーよかったです!」
「そのお礼と言ってはなんですが、この桜の区画のガイドはお入用ではありませんか?」
「え、惣一郎さんは…」
「大丈夫です。無事ならいいんです。それに、ガイドはお仕事なのでやらないと」
「えと。どうしよう…」
「お言葉に甘えてもいいんじゃないかな。広くてどこ行っていいのか迷うーって言ってただろう」
「う、うん。じゃ、お願いしてもいいですか?蝶子さん」
「もちろんです!」
「露店の大通りから細い道に一歩入ると、桜の間を散策する遊歩道になっております」
「わー桜がいっぱいきれいだねー」
「そうだな…だが、俺にはお前の方が…」
「? 何か言った」
「いや、なんでもない」
「途中にはいくつか、東屋もあり、カップルたちが甘いひと時をすごすことができます。あそこにも…あ」
「…先客がおられるようですね」
「邪魔にならないようにこっちの道にいこうか…」
「こほん…この桜の園には、約200種類の桜が植えられているそうです」
「わーたくさんあるんですねー」
「ええ、開花時期の違う桜を混ぜて植え、緩やかに気候を変化させることで、
 全体として常に花が咲いている状態を保っているそうです」
「なるほど、それで、花びらがちらほら散ってるのに、ずっと咲いてるような感じがするんですねー」
「中には、この区画用に品種改良されたものがあって、
 その中には常時咲き続けるものもあるんですよー」
「なるほどなるほど」
「品種改良といえば、変わったところでは
 『蓄光桜』という、昼間に日の光を蓄えて夜になると光るという、桜もあります。
 ええと、確かこちらに」
「へえ、今だと普通の桜にしか見えませんねー」
「夜になるとこんな感じですよ。(パンフレットを開きながら)
 今度、お二人で夜に来られてはいかがでしょう。
 淡く光る桜の木の下でお月見というのも風流かと」



「いいですね。えと、また一緒に来てくれる?」
「もちろんだ。場所を覚えておこう」
「えへへ。嬉しいな」
「…どこか、特に見たいものとかありますか?」
「確か、花吹雪が見たいとか言ってなかったか?」
「あ、うん…桜の花びらがわーっと散ってるところが見たいな、と、ちょっと思ってた。
 えっと、そういうところありますか?」
「そうですね。丁度満開で、散り始めの桜のあるところならいいかもしれませんね。ええと…
 あ、この近くだと、この先の高台の桜がいいようです」
「調べていただいてありがとうございますー」
「いえいえー。さっそく行ってみましょう」
「はい!」
「わーわー凄い。花びらの洪水みたいです。わー」
「あんまりはしゃぎ回ると危ないぞ」
「だってすごいきれいなんだもん。わー(くるくるー)」
「まったく…」(苦笑しつつ愛しそうに目を細める)
(惣一郎…どこいったのかなぁ…)
「貴方のヤガミが心配ですか?」
「え、ええ…(わーヤガミやっぱり似てるなぁ)」
「どうも、ヤガミらしき気配はあちらの方にいるようだ」
「わ、わ…ありがとうございます」
「もう十分ガイドはしていただいた。貴方のヤガミを探しに行くといい」
「そうですよ、蝶子さん。ありがとうございました」
「う…ごめんなさい。じゃ、またガイドが必要なときは呼んでくださいね」

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「蝶子さん、惣一郎さんと会えるといいねぇ」
「大丈夫だ。俺の一人だからな。絶対に会えるさ」
「…私がはぐれたら、ちゃんと探しに来てくれる?」
「もちろんだ。どこに居ても、必ず見つけ出してみせる」
「えへへ、嬉しいな…約束だよ」
「もちろんだ」


蓮華の園桜の園梅の園苺畑
たんぽぽ&クローバーの園望楼小麦畑&風車区画