望楼
     

「あ」
「あー(ちょっと帽子を傾けて顔を隠そうとする)」
「? どうかしました?」
「その、なんだ…似合ってる」
「え?…あ、ありがとうございます」
「いや、礼は…」
「…今日はどうしたい?」
「そうですね。あ、パンフレットもらったんですよ、春の園の…
 望楼、というところに行ってみたいな、と思ってるんですけど…」
「中央部、梅の園の周りにあるようだな
 (パンフレットを覗き込む、顔が近い)」
「え、ええ……」
「……!」
「あれ?あそこの茂み、がさごそいってる?」
「うー、惣一郎ここにもいない…」
「わ!蝶子さん!?」
「知り合いか?」
「あ、はい、レンジャー連邦の藩王さまの蝶子さんです」
「はじめまして、今日は藩王じゃなくてここのガイドをしてます。よろしくお願いします」
「藩王のバイトとしては…変わってるな」
「そ、そうですか? うちの国貧乏なんで…」
「いやそれはすまなかった…貧乏なのか…それは大変だな、よろしく頼む」
「なるほど。それで、そういう格好なんですね」
「ええ、ちょっと、似合ってないんですけど…」
「とっても似合ってると思いますよー」
「そういっていただけると嬉しいですー。そちらの今日のワンピースも素敵です〜」
「わーい、ありがとうございますー  それで、ここへはガイドに?」
「あ、はい、ガイドに…です」
「わ、わ、蝶子さん、どうしたんですか?」
「な、なんでもないですー がんばってガイドします!」
「は、はい、よろしくお願いします」
「それで今日はどちらへ行かれるんですか?」
「望楼、というところに行ってみようと思いまして」
「春の園に望楼というのは4つあります。
 4つそれぞれが、東西南北の四方を司る四神にちなんだ名前をつけられてます。
 つまり、青龍(せいりゅう)、白虎(びゃっこ)、朱雀(すざく)、玄武(げんぶ)という名前がついてます。

 青龍は、陰陽五行で木を象徴し、東の方位を守る霊獣です。
 困難な状況に陥ったときや、人間関係のトラブルなどを、良い方向に改善する力があります。

 白虎は、陰陽五行で金を象徴し、西の方位を守る霊獣です。
 邪気を祓い侵入を防ぐ力があり、闘争心を養う力も持っています。

 朱雀は、陰陽五行で火を象徴し、南の方位を守る霊鳥です。
 情報収集をする力を持ち、将来展望の正確さをもたらしてくれます。鳳凰とも呼ばれます。

 玄武は陰陽五行で水を象徴し、北の方位を守る霊獣です。
 背後からの攻撃や予期しない攻撃から守ってくれる力があり、邪気が侵入した時には祓ってくれます。

 そして、それぞれの望楼は四神の属性にちなんだ作りになってます。
 青龍の望楼は木造、朱雀の望楼には篝火が焚かれ、
 玄武の望楼はお堀に囲まれて噴水や池がしつらえてあり、
 白虎の望楼には金属が多用されています」
「わー蝶子さん、すごいすごい」
「えへへ、一生懸命暗記しました」
「ふむ、全部を回るには時間が足りないな。どこに行きたい?」
「そうですね、どの望楼もご利益がありそうですが…
 職業柄、情報収集の朱雀、とかいいかもしれませんね。
 …えと、でも背後からの攻撃からの守護も捨てがたいですね」
「ふむ、玄武か…」
「どちらも見ごたえあると思いますよ。どちらにしますか?」
「予期しない攻撃は俺も心配だからな。玄武にしようか」
「はい、じゃあ玄武へ行ってみましょう」


「こちらが玄武の望楼になりまーす。
 玄武の望楼は周りを掘りに囲まれ、橋を渡って中へ入るようになってますー。
 また背後には亀の形を模した池がしつらえてありますが、
 それは頂上に登ってから見降ろすのがよいです。
 では、中へ参りまーす」
「はーい♪」
「……」
「塔自体は木造になっております。中は暗いので足元に気をつけてくださいね。
 七階建てで、頂上の物見台まで階段で登ります」
「はい、がんばりまーす」
「はーい、ゆっくり登りますので、ついてきてください」
 
「到着しました。ここが頂上の物見台です!」
「うわー、飛行船が大きく見える!すごい見晴らしですねー」



「そうでしょ そうでしょー すごく見晴らしがいいんですよ。
 遠くが霞んで見えるので、望楼のことを霞台、と呼ぶこともあるんです。
 あ、さっき言った亀の形の池がほらあそこに」
「わー ほんとだ。ほんとに亀の形になってるんですねー」
「ええ。あと、今は動いてないんですが、
 そのうちあの池の真ん中とかから噴水が噴き上がるようになるそうですよ」
「へえ、それはまた見に来たいですね」
「そうだな」
「ええ、ぜひ、また来てみてください」
「高い所だし、ここから惣一郎の姿みえませんかね…(きょろきょろ)」
「蝶子さん、何かお探しなんですか?」
「え、ええ、ちょっと、うちの惣一郎を…(ごにょごにょ)」
「あ、そういえば、蝶子さんとこのヤガミ、いったいどちらに…」
「その…はぐれてしまって…」
「ええ!そんな、それはこんなところでガイドしてる場合じゃないじゃないですか」
「いえ、いえいえいえ、ガイドは仕事ですから。ちゃ、ちゃんとやらないと…」
「惣一郎さんをみかけませんでした?」
「いや、俺は見てない。すまん」
「え、いえ、いいんです…」
「…(びぃいんと琴の音を立てる)」
「琴の音…せ、仙女、さん?」
「あ、そうですそうです。
 望楼にはたまに仙女さんが現れるそうです。お邪魔しております(ぺこり)」
「あ、ご挨拶が遅れてすみません。お邪魔しております(ぺこり)」
(帽子を取って会釈)
「どなたかお探し?」
「え、え? あ、はい、惣一郎という男性とはぐれてしまいまして」
「ふふ、恋人?」
「☆○!▲☆◎!!…えとえと、はい…」
「ここには恋人たちがたくさん来るわ…そうね…あちらにいるみたいよ?」
「わ、わ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!!!」
「いえいえ、どういたしまして。会えるといいわね」
「はい!」
「わーよかったですね!蝶子さん」
「え、ええ、よかったです!! 嬉しいです!!!」
「惣一郎さんが動かないうちに、急いで行ったほうがいいですよ」
「は、はい。では、失礼します」
「頑張って見つけてくださいね!」
「がんぱります!!!」
 
「惣一郎さん、見つかるといいですね…」
「そうだな…」


蓮華の園桜の園梅の園苺畑
たんぽぽ&クローバーの園望楼小麦畑&風車区画