迎賓館の廊下を、鐘音の後に続いてソーニャとエミリオは歩く。
所々に飾られた美しい美術品を眺めながら、迎賓館の主な部屋を見て回った。
玄関や食堂、香水塔などを見た後、迎賓館では他にどんなことがあるのだろう?
エミリオとソーニャはそんなことを思った。
案内をする鐘音に聞いてみると、鐘音は迎賓館の機能について説明し始めた。
まず迎賓館のメインの一つ、宿泊について。
鐘音は、実際に賓客が利用する寝室へと二人を案内した。
立派な樫の扉。その扉の横には、もう一つ扉がついていた。
扉の一つには、「客室」、もう一つの扉には、「控え室」と書かれていた。
控え室とは、お供の人の寝室である。
「このように、何かあってもお供の方がすぐに駆けつけることができるようになっています」
「お供が近くに居るのは安心できていいね」
鐘音の言葉に、何度も公式の場に泊まった事のあるエミリオが頷いた。
エミリオ曰く、このような慣れない場所では緊張するので、身近な人が傍にいると安心できるとのことである。
客室を離れ、しばらく歩く。
すると、今度は衛兵の立つ扉が見えてきた。
黒檀の重厚な扉には、こう書かれている。
「非公開会談室」
「迎賓館では、会談がよく行われます」
「会談…。宰相とお話したり、とかですか?」
ソーニャの言葉に鐘音は頷く。
「通常の会談室の他、このような厳重なセキュリティが施された非公開会談室もあります」
扉の前に立つ衛兵は、微動だにしなかった。
常に警戒しているのだろう。
会談室を離れ、三人は再び歩きだす。
「そういえば。会談と言えば身だしなみが必要だよね。
そのためには、どこで身だしなみを整えればいいの?」
エミリオの問いに応えるように、鐘音はある扉の前で立ち止まった。
隣り合う二つの扉にはそれぞれ「ドレッサールーム」と「理髪店」のプレートがかかっていた。
鐘音の案内でドレッサールームの中へ入る。
すると、色とりどりのドレスが飾られている一角が眼に入った。
用途別に並べられたドレス、そしてタキシード。
淡い藤色の膝丈ドレス、深い緋色のマーメイドラインドレス。
さまざまな色、さまざまなデザインのドレスが所狭しと並べられている。
「わー…凄い」
ドレスをみて、感嘆するソーニャ。
その様子を見て微笑んだ鐘音は一つの提案をした。
試着してもよい、とのことである。
いっぱいあるドレス。この中から一つを選ぶのは難しいことだ。
迷うソーニャを見た鐘音は、こう言った。
「r:ソーニャの姿を2倍にして投影する」
すると、壁一面に、ソーニャの全身像が映し出された。
更に続けて、
「r:目の前のドレスを投影したソーニャに着せる」と
鐘音が言うと、今度は鐘音の目の前にあるドレスを着たソーニャが、映し出された。
ようやく気づいたソーニャは、壁をみて驚いた。
「わわ、私ドレスを着てる。というかデカ!?」
「このような函を使ったホロクリスタルも迎賓館では使えます。
他にも、小さく投影したり、宰相府の地図や、過去の映像も投影できたりします。試着はこれで行なうといいですよ。
使用の際には『r:』を使ってくださいね」
鐘音の説明にソーニャは頷く。
そして一つずつドレスを試着していった。
次々とドレスを着替えるソーニャを見ていたエミリオは、傍にあった三つ揃えのスーツを手に取ると、ソーニャと同じように自分の姿を投影して見せた。
二倍に投影された二人の像は、並んで立つ。
二人は、笑い合うと、仲良く手を繋いでその像を見ていたのだった。