管制SS



「A−1、ランディングアプローチに入ります。オートランディング。オールグリーン」
「管制塔より201飛行隊へ。帰還時刻が五分遅れている。残存燃料の再確認を行え」
 部下が淡々と仕事をこなしていく様子をカドウは見やりながら、ふと、いや、やはりいかんと思った。
「地味だ」

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 管制塔を見上げる。整備員ヤムァグチはフェイク・アメショーの塗装を行いながら呟いた。
「地味だな」
「ペンキでも塗りますか? 赤白青の三色トリコロールとか」
「上と下に分かれて、コアブロックでもでてきそうだな」
「それぐらいのインパクトがないと、地味なんですよ」
「そうか・・・・・・」
 地上でI=Dをまつ整備員は、ちょっと暇だった。

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「はい?」
 隣でコーヒーを注いできたザダが、危うく転びそうになる。
「いきなり唐突に、なんですか」
「地味だ。地味なんだよ。そうは思わないか?」
「は、はぁ……」
「一週間後の航空ショーで管制塔を公開するそうだが……どう思う。地味だと、思わないか?」
 まあそうだと、ザダは思った。
「そりゃあ、空には負けますけど、大事な役職ですよ。地味といわれても仕方がないじゃないですか」
「まあそうだが、客さんから見たらちょっと、なぁ。やはり派手にせんといかんのだよ」
 ザダからコーヒーを受け取り、すする。辛い。チリペッパーでもいれたのか。
「A−1、タッチダウン。第1スポットへ移動後、燃料補給を行え。――101飛行隊は全機帰還。30分後、201飛行隊の全機着陸を持って離陸を開始する。それまで待機」
「管制塔より201飛行隊。燃料が10%未満のアートポストを優先的に着陸させるそれ以外のアートポストは上空で待機。――B−4、B−6、ランディング・アプローチ」
 窓の外を見やると、2機のアートポストがやや前後をずらしながら滑走路へと近づいてくる。
「……いっその事、スクランブル発進のやりとりでも入れるか。もしくは緊急着陸でも実地、とか」
「それで充分だと思いますけど」
「じゃあそうするか。そうだな。本当に緊急着陸でもさせるか」
 ザダの顔から、さっと血の気が引く。
「フェイクの降着輪を壊してだな、胴体着陸を強行するために燃料を投棄しながらやるんだよ。うちのパイロットは質がいいからな。それぐらいできるだろう。おう、我ながらいい案だ」
「やめてください」
 カドウは、むぅ、と唸って止めた。
「――B−7、降着輪の油圧系に異常発生。車輪が降りないそうです」
「噂をすれば、なんとやら、ですよ」
「噂はしていないが……管制塔より消火班へ。胴体着陸をする機体が来る。いつでもいけるよう準備しろ」
「管制塔よりB−7。燃料を投棄し、着陸に備えよ」
『B−7より管制塔、了解。エスコートをお願いする。無事に着陸させて、地面に足をつけさせてほしい』
「管制塔よりB−7。任された。距離6000――」
 今日も、管制塔はしたたかに仕事をこなしていく。

Fin.

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